農研機構

VOICE from NARO

農業者の農作業事故撲滅のために

農業における農作業事故、例えば農業機械の転倒、作業機への巻き込まれなどによる死亡率は、建設業などの他産業に比べても著しく高くなっています。

農研機構は、農業・食品産業に関わる実に多くの分野で研究開発を実施していますが、このような深刻な事態を踏まえ、農作業事故防止・安全対策は喫緊の課題として農業機械研究部門を中心に、農機の安全性検査や農作業安全に関わる研究開発に取り組んでいます。

安全性検査では、民間企業から市販化された農機や施設が一定の安全基準を満たしているか検査を実施しており、国内では唯一の検査機関になっています。合格機はJ A共済連の共済掛金が割引かれる制度に適用され、安全性の高い農機購入の動機付けと安全性の意識向上が期待されます。また、日本では世界に先駆けてロボット農機が市販化されていますが、その際に農研機構が策定した安全性検査基準をISOに提案し、国際標準化を目指し取り組んでいます。

農作業安全のためには、事故を「他人ごと」とせずに、自分にも起こりうることとして認識し行動していただくことが重要です。そのために、農作業に潜む危険性を疑似体験できるVR(仮想現実)を活用した危険体験型安全啓発システムなどを開発しています。事故への注意喚起をしっかりと意識に繋いでいただき、事故を「自分ごと」とするシステムとして、農業者への安全啓発活動に利用していただいています。

農作業時には、事故防止のために注意はしていても、人の注意の持続にはどうしても限界があり、間違い、勘違いによっても事故は起こります。そのために、センサーやカメラ、AIやITを活用し、人に代わって危険を感知するシステムを開発しています。トラクター作業時などに危険部位への人の接近をカメラとAIにより検知し、巻き込まれ事故防止のための技術開発も行っています。

農研機構は農作業事故撲滅に貢献できるように、これからも取り組んでまいります。

※国際標準化機構。国際的な規模で「標準」をつくる組織。

理事(研究推進Ⅱ担当)
湯川 智行YUKAWA Tomoyuki