| 鳥害とは | |||||||
|
|||||||
| <目次> | |||||||
|
❖ はじめに ❖ 農家・圃場単位の防除対策 ❖ 地域単位の防除対策 ❖ 結論 ❖ 鳥についてのよくある誤解 |
|||||||
❖ はじめに
|
■全国での鳥害の状況野生鳥獣による農作物被害状況については、毎年、農林水産省が全国の自治体からの報告(聞き取り調査等)をもとに取りまとめたものが公表されています(こちら)。全国的な統計としてはこれが唯一の資料です。 この資料から、ここでは鳥類について整理します。
(1) 被害面積
(2) 被害量
(3) 被害金額
|
■鳥害対策の難しさ鳥害対策というと、各種機器を用いて圃場から鳥を追い払おうとするイメージがありますが、なかなか効果があがりません。その理由はいろいろありますが、特に知っておいてほしいことを3つ挙げましょう。
|
❖ 農家・圃場単位の防除対策
|
■防鳥網防鳥網を用いて鳥と農作物を物理的に遮断するもので、もっとも確実な被害防止策です。大規模な露地栽培では実用的ではありませんが、小規模栽培や果樹栽培では基本技術と言えるでしょう。防除対象となる鳥の種類に合わせて網目の大きさを選ぶことと、すき間を作らないこと、網を作物から十分に離し、たるませないことが大切です。網目サイズは細かいほど小さい鳥にも入られませんが、風雪の影響を受けやすくなります。スズメには20mm目、ヒヨドリやムクドリには30mm目、カラスには75mm目の網が必要です。 防鳥網は鳥害対策としては優れていますが、設置や撤収の手間がかかり、作業のじゃまになる等の問題があります。また、鳥が通り抜けられるような大きさの網目の場合や細い糸の場合、網がたるんでいる場合等では、網に鳥が絡まり死亡する事故(羅網死)が生じやすくなります。コストは、材質や設置方法によってかなり違います。 当グループでは、安価で簡易に防鳥網を掛ける方法として、高さ2.0mまでの果樹や果菜への防鳥網の簡易設置技術「らくらく設置2.0」、高さ3.5mまでの果樹への応用型「らくらく設置3.5」の設置マニュアルを公開しています。 ■テグス、糸など防鳥網のように完全に被害を防止することはできませんが、カラスに対しては農地にテグスや糸を張ることも比較的有効です。当グループでは、果樹園のカラス対策「くぐれんテグスちゃん」と「くぐれんテグス君」、畑作物のカラス対策「畑作テグス君」、ビニールハウスのカラス対策「ハウスにテグス君」の設置マニュアルを公開しています。一方で、ハトやヒヨドリのような中小型の鳥類や、カモ類には、テグスや糸を張ってもほとんど効果がありません。 ■さまざまな刺激を用いた防鳥機器強い音声、吹き流し、鳥の声などによって鳥を追い払おうという機器です。一時的には効果がありますが、鳥にとって実害をもたらさないため、日数の経過とともに慣れて効果がなくなります。これらの追い払い機器は要防除期間のみに設置し、期間終了後はただちに片付けます。設置物の種類や位置、組み合わせなどを頻繁に変えて、常に鳥に「ここは変だぞ」と思わせておく工夫が大切になります。 |
| 機器 | コメント |
| 爆音器 | 農地と住居が混在している日本ではプロパンガスによる比較的小音量のものが用いられているが、それでも騒音で苦情が来る。鳥の慣れも早い。 |
| 複合型爆音器 | 爆発音とともに板や旗が打ちあがって落ちてくるもの。商品名ラゾーミサイル、ドンピカなど。5万円程度と比較的高価だが、キジバトには比較的効果が高い。 |
| シェルクラッカー | 鉄砲から発射され、上空で炸裂する。小型ピストルタイプもある。海外ではよく使われているようであるが、日本での使用例は空港などに限られる。実弾による駆除と併用すると効果が高い。煙火・花火でも同様の効果がある。 |
| 防鳥テープ | キラキラと光るテープを作物の上に張り巡らす。防雀テープともいう。鳥が警戒して避けることを期待したもの。あまり効果は期待できないが、安価で気楽に使える。 |
| 吹き流し | 長いポリマルチを用いたものは、夜行性のヒドリガモによる麦への食害対策に有効だったという報告がある。 |
| 磁力 | 我が国ではブームであるが、効果は疑問。海外の試験でも、ムクドリの巣箱に磁石をセットしても何の影響もないなど、否定的な結果が出ている。ヒヨドリを用いた試験でも効果はなかった。 活動記録:「日本鳥学会誌」に磁石による忌避効果はみられないことを調べた論文を執筆もご覧ください。 |
| 超音波 | 鳥に超音波は聞こえない。 |
| ディストレスコール | 鳥の悲鳴のことで、遭難声ともいう。市販の音声防鳥機器にもっともよく使われている。ねぐらからの追い払いには有効だが、農地ではすぐに慣れを生じることが多い。ディストレスコールをまねた合成音も用いられている。 |
| 目玉模様 | 昆虫の目玉模様を拡大、誇張した風船などが用いられているが、すぐに慣れを生じる。そもそも鳥が「目玉」とだまされて驚くのかどうかにも疑問がある。 |
| マネキンやかかし | 人に似ているほど効果が高いが、やはり慣れを生じる。動作を加えると効果が高まる。こまめに場所や向きを変えることも大事。キジバトに比較的有効。 |
| 鳥の死体(模型含む) | カラスなどの鳥の死体をぶらさげるもので、昔から各地で行われている。鳥が仲間の死体を見て危険を察知するかどうかは不明。効果があるという人も多いが、やはり慣れを生じる。 |
■化学物質による摂食防止直播田のような広い面積で播種期に有効な対策としては忌避剤がもっとも期待されます。ただ、現在日本では鳥用忌避剤としては数種類しか農薬登録されておらず(表)、その効果も周辺状況などに左右されるのが実状です。忌避剤の試験では、室内実験では効果が見られても実際の圃場では安定した効果が得られないことがよくあります。また、効果は期待できても致死率が高く、日本の法体系では使用できるめどがない場合もあります。 |
| 有効物質(一般名) | 商品名 | 対象作物 | 対象鳥種 | 処理 | 備考 |
| チウラム | アンレス | 稲 | スズメ | 種籾に浸漬処理 | もともと殺菌剤。残効性が長く,鳥獣への毒性は低い。絶対的効果は期待できない。魚毒性が強い(C類)。フロアブル剤は種子処理作業中に薬剤が飛ばない。キヒゲンは旧名キヒゲンセット、キヒゲンR-2フロアブルは、旧製品キヒゲンディーフロアブル。 |
| キヒゲン | だいず・えだまめ | ハト | 種子に粉衣処理 | ||
| とうもろこし・飼料用とうもろこし | カラス・キジ・ハト | ||||
| キヒゲンR-2フロアブル | 稲 | スズメ・ハト・キジバト・カラス・カワラヒワ | 種子に塗沫処理 | ||
| 大麦・小麦・麦類 | ハト・キジ・スズメ | ||||
| いんげんまめ・えんどうまめ | ハト・カラス・キジバト | ||||
| だいず・えだまめ・あずき・豆類(種実・未成熟) | ハト・カラス | ||||
| ひまわり | カラス・ムクドリ・ハト | ||||
| 雑穀類・とうもろこし・飼料用とうもろこし・ソルガム | カラス・キジ・ハト・キジバト・ムクドリ・スズメ | ||||
| チアメトキサム フルジオキソニル メタラキシルM |
クルーザーMAXX | だいず・えだまめ | ハト、キジバト | 種子に塗沫処理 | もともと殺虫殺菌剤。 |
❖ 地域単位の防除対策
| |
■耕種的防除鳥害を受けにくい作物や作期を選ぶ、といった耕種的防除は昔から行われてきました。これだけで鳥害をなくすことはできませんが、他の技術を使う前提となる基礎技術として重要です。播種深度や水稲栽培における水深管理などは個々の農家が実施できますが、輪作や一斉播種といった作付け体系の見直しに代表される耕種的防除には地域単位で取り組むことが必要です。
■駆除・個体数管理狩猟や有害鳥獣駆除も重要な鳥害対策です。では、狩猟や駆除によって個体数を減らせるでしょうか。鳥の場合、個体数は毎年比較的安定しており、その上限は餌量に制限されていると考えられます。また、1回の繁殖で2~10雛程度を育て、鳥によっては1年に何回か繁殖します。移動能力にも優れています。したがって、狩猟や駆除によって少々鳥を捕獲しても、餌量が変わらない限りは、繁殖や周辺からの移入によって個体数はすぐに回復してしまいます。もちろん、鳥の回復力を上回る捕獲を続ければ、個体数は減少します。肉がおいしい等の理由で狩猟圧の高い鳥や繁殖率の低い大型の鳥では、過去に過剰な捕獲圧によって個体数が激減した例が少なくありません。しかし、現在の主要な有害鳥については、捕獲によって個体数を減らすことは不可能か、もし可能であってもコストに見合わないでしょう。 狩猟や駆除の意義は、むしろ鳥と人との緊張関係を維持することにあります。その結果、防鳥機器の効果を高めることもできます。例えば、同じ防除機材がキジバトでは有効なのにドバトには無効なことがあります。これは、キジバトが狩猟鳥なのに対し、ドバトは餌をもらったりして人に慣れているためと考えられます。野生の鳥が過剰に人に馴れたり依存したりするのは好ましくありません。農作物という鳥にとってのごちそうを作っている以上、それを利用しようとする鳥をある程度捕獲して人や農地を恐れさせるのは、人と鳥の共存にも必要でしょう。 ■その他の鳥害対策空港ではハヤブサなどの猛禽類を用いた鳥の追い払いも試みられています。しかし、猛禽類を訓練して使いこなすには鷹匠の技術が必要ですし、野生の鳥は野生の猛禽類と共存しているので、猛禽類を見て逃げても、その近くに戻って来なくなるようなことはまずありません。鳥害抵抗性作物の育種も、ソルガムなど一部の作物で研究されている例がありますが、わが国ではほとんど取り組まれていません。需要を考えても実用性はありません。 |
❖ 結論
| |
結論的には、鳥の慣れ(学習)を打破する追い払い法は現状では見当たりませんし、近い将来開発される見込みも少ないでしょう。そういう状況下で、次のようなことが大事です。(1)防鳥機器に頼りすぎない鳥は新奇なものをとりあえず避けますので、どんな機器でも初めは「効果がある」ように思えます。しかし、実際に鳥に危害を加えるわけではないので、鳥はどんな機器にも早晩慣れてしまいます。また、鳥は広い範囲を動き回るので、「効果」の程度は周辺にある他の餌の量や防除策等によって大きく左右されてしまいます。農薬と違って、今のところ防鳥機器については公的な認定制度もありません。防鳥機器は、短期間で効果がなくなるものだと思って使いましょう。 (2)コスト計算をするどんな防鳥機器にも鳥は慣れてしまいますが、何もやらないよりは被害が減ります。大事なことは、コストに見合うかどうかです。被害状況や防除手段の効果、価格等についてできるかぎり数値で評価し、それを元に費用対効果を計算してその防除手段が導入に値するかどうか十分検討しましょう。配慮すべき項目を表にまとめました。ただし、資材導入の補助金等については配慮していません。 |
| 項目 | 単位 | 値の例 | 説明 |
| (栽培条件、作物、被害に関する情報) | |||
| 10a当たり収量 | kg | 500 | 鳥害がない場合の予測収量 |
| 単価 | 円 | 250 | 生産物の売価 |
| 被害率 | 割合 | 0.2 | 何も鳥害対策をしていない場合のある時点での被害率 |
| 相対減収率 | 割合 | 0.8 | ある時点での被害率と最終減収率との関係 |
| 減収率 | 割合 | 0.16 | 被害率×相対減収率 |
| 被害額 | 円 | 20,000 | 10a当たりの年間被害額。反収×単価×減収率 |
| (防鳥資材に関する情報) | |||
| 機材単価 | 円 | 30,000 | 機材1台当たりの購入費(負担額) |
| 耐用年数 | 年 | 4 | |
| 運用費単価 | 円 | 0 | 1年1台当たりの燃料費、メンテナンス・修理費、手間賃など |
| 機材必要数 | 組・台 | 2 | 10a当たりに必要な数 |
| 機材費 | 円 | 15,000 | 10a当たりの年間コスト |
| 機材の効果 | 割合 | 0.2 | 無対策の場合に比べて被害率をどれだけ減らせるか |
| 対策時被害額 | 円 | 4,000 | 機材を導入した場合の予測被害額.無対策時の被害額×機材の効果 |
| 対策総コスト | 円 | 19,000 | 機材費+対策時被害額 |
| (結論) | |||
| 費用対効果 | 割合 | 1.05 | 被害額÷対策総コスト。1を上回れば対策導入の価値あり |
| 増益 | 円 | 1,000 | 機材導入による10a当たりの増益分。プラスなら導入の価値あり |
(3)状況に応じた対策(圃場・農家レベル)大規模に商品作物を作っているのか、もっぱら自家消費用の小規模な圃場かでは自ずと対策が違います。万能薬はありません。大規模な場合には、どちらかというと耕種的手法を中心に、小規模な場合には物理的遮断(防鳥網)や個人的な創意工夫による追い払いを中心に考えましょう。(4)駆除によって緊張関係を維持する被害が常態化している地域では、鳥と人との緊張関係が失われていることが多いようです。そうならないためには、正式に許可を取って銃器による有害鳥獣駆除も適切に実施しましょう。(5)鳥害を完全に防ごうとはしない:補償制度でカバーを鳥は広域で移動するので、農家単位での被害対策(追い払い)と広域での被害軽減は両立しにくいものです。地域としてはたいした被害ではなくても、特定の農家が甚大な被害を被ることがあります。いたずらに防鳥機器にコストをかけるよりも、被害が集中したところに補償した方が安上がり、という発想も必要でしょう。ガン類やツル類といった大型の保護鳥渡来地では自治体が独自の補償制度を設ける例も出てきています。なお、共済制度については全国農業共済協会をご参照ください。 (6)地域に応じた農業(地域・自治体レベル)特定の鳥害が多発し、耕種的な工夫で防除できないなら、それはその地域に向かない作物という考え方も必要です。例えば、カルガモが多い河川沿いでは水稲の湛水直播は難しいようです。他の栽培方法や作物を探求します。 |
❖ 鳥についてのよくある誤解
|
| ちょっと本当らしい話が信じられやすいようです。だまされないようにしましょう。「誤解」をクリックすると「本当は」が見られます。 |
誤解:本能的にいやがる刺激を使えば、鳥は慣れない?→本当は:タカやヘビに対する忌避反応はたぶん遺伝的ないしは本能的ですが、偽物はやがて見破ります。 誤解:鳥は人よりも目や耳がいい?→本当は:ふつうの鳥は視覚も聴覚もせいぜい人と同程度です。ただし、多くの鳥は人には見えない近紫外線 (UV-A) を感知できます。 誤解:鳥が嫌う色がある?→本当は:鳥は色を識別できますが、「本能的に」嫌う色はありません。鳥によっては緑色っぽいものより赤いものを好むといったことはあります。しかし、緑色の餌がおいしいことがわかればちゃんとそれを学習します。 誤解:鳥は磁力で方位を決めているから、磁石で方向感覚を失う?→本当は:ハトや小鳥などは地磁気で方位がわかります。しかし、地磁気が乱れても視覚や太陽コンパスが使えるかぎりは方向定位や行動には影響しません。 誤解:最近害鳥が多いのは、山の環境が悪くなったせい?→本当は:農業害鳥はもともと里の鳥です。個体数や鳥害が増えているとすれば、むしろ農業や人里の環境変化が原因と考えられます。「山に実のなる木を植えれば鳥は畑から山へ帰ってくれる」ということはありません。山にも木の実を食べる鳥が増えるだけです。ただし、大雪の年などに山の鳥が里へ下りてくるといった現象はあります。 誤解:安価な防鳥機器なら、年間コストは被害額より少ない?→本当は:そういうこともあるでしょう。ただ、大事なことは、1)防鳥対策をしても被害はゼロにはならないので、そのときの被害額も算入することと、2)そもそもある対策をしたときの効果は周りの人・圃場での対策によって違ってしまうこと、です。 誤解:ホームセンターで買ってきた○○でも被害が減った?→本当は:どんな防鳥対策でも、鳥にとっては「怪しい」ので、近くに何もやっていない圃場があれば、一時的にそちらへ行きます。周りが対策をたてたり時間がたてば戻ってきてしまうことも見越して評価しましょう。 誤解:鳥にはなわばりがあるから、うちの圃場で駆除すればしばらく大丈夫?→本当は:たいていの農業害鳥は、皆さんのイメージするようななわばりを持たず、もっぱら群れで生活して広い範囲を飛び回っています。駆除で効果があるとすれば、鳥がその場所を危ないと学習したり、危険に敏感になるためです。 |