データ共有の考え方について
Reference for sharing the agricultural information
施設園芸では、普及員が営農指導のために複数の農業者の営農データを閲覧したり、生産部会のメンバーが相互にデータを共有することで、産地全体での営農技術の向上や様々な営農上の課題の解決を図る取組が進められています。また、このデータ共有の実現には多様な手段が用いられています。
これらのデータの共有に関する方法は、農林水産省において「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」 、「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドライン」等の指針を示しています。また、この際に注意すべき個人情報の取扱いは「個人情報の保護に関する法律」等で整理されています。しかし、施設園芸に特化した議論は行われておらず、関係者に以下のような懸念が残っていると考えました。
- データ共有機能を備えるアプリを製造・販売する企業(ICTベンダー)
- 自社アプリでデータ共有機能を設計する際のベストプラクティスが無く、判断が困難。
- アプリを用いて農業データの管理を行いたいと考える農業者
- プライバシーの懸念、信頼性の不安(例:自身のデータがどの範囲まで共有されているかが不明)等の理由でデータ活用に消極的になる。
- データを活用した営農指導等の必要性を感じている自治体
- 外部にアプリ開発を依頼する際、共有機能に関する設計指示(要件定義)が困難であり、参考事例も不足している。
- アプリにデータを提供する企業(デバイスメーカ等)
- 自社のデータ共有の考え方とは異なる使われ方への懸念がある。
そこで、施設園芸データ連携コンソーシアムでは、令和7年度の取組として、現在の施設園芸におけるデータ共有のユースケースを踏まえ、関係者全員が納得できるデータ共有に関する意見をまとめ、それを指針として整理しました。
施設園芸におけるデータ共有指針
設定したユースケース
- 生産部会のメンバーが相互にデータを共有する
- 普及員が営農指導のために複数の農業者の営農データを閲覧する
登場人物(APIガイドラインでの呼称を括弧内に併記)
- 生産者(農業者)
- ある生産部会に所属している農業者。
- 部会内で共通のアプリを利用し、営農技術の向上を図っている。
- 園芸ハウスには環境制御システムを導入している。
- アプリ提供事業者(接続事業者)
- 生産者に営農支援アプリを提供している事業者。
- 自社アプリ上で環境制御システムのデータを閲覧できるよう、環境制御システム提供事業者との間でAPI利用契約を締結している。
- これにより、環境データを活用した新たな営農支援サービスを提供している。
- 環境制御システム提供事業者(機械提供事業者)
- 生産者の園芸ハウスに設置された環境制御システムの製造・販売事業者。
- 環境制御システムのデータを自社サーバーに格納し、生産者のスマートフォン等で環境データの可視化を行うサービスを提供している。
- データコンサル・普及員等の営農指導者(第3者)
- 生産者からデータの提供を受け、営農指導等を行う者。
- 営農指導は対個人のみならず、部会全体で行う場面もある。
ユースケースに基づいて設定したテーマ
- データの共有方法
- データ共有元とデータ共有相手が同じ部会に存在し、かつ、同じアプリを利用している場合、どういった懸念があるか?
- 共有するデータの内容
- 共有相手に提供するデータの内容について、どういった懸念があるか?
- 第3者へのデータ提供
- 「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドライン」で定める「農業者の自己利用の範囲」における第3者へのデータ提供を行うにあたり、注意すべきポイントは?
結論 - データ共有の指針
関係者は、次のことに留意することが望ましい。
- 共有の意義と機能の提示
- 利用者に対して共有の意義、機能を提示し、共有元の同意を得るシステム設計とする。
- 具体的な共有機能設計(例)
- 他者のデータを直接参照する場合は、共有元の合意を必要とする。
- 個人が特定できる他者データは、システムから抽出(例:CSVによる出力)できないようにする。
- 共有データを抽出する場合、そのデータはグループ化等により複数の他者データが分析(平均化など)されたもので、個人が特定できないようにする。
- 共有機能を既存システムに追加的に設ける場合、初期設定は「共有しない」状態にする。
- 利用者の不安感を払拭するための対策
- 生産者に対する事前説明会等を開催する。
- 共有機能を利用する際に同意を求める内容を具体的に提示し、説明する。その内容としては、次のようなものが考えられる。
- 自身のデータ以外を第3者へ提供してはならない禁止事項
- 共有によって生じた問題は共有データの利用側が責任を負うものであり、共有データの提供元に遡及しない等の免責条項
共有データの内容と方針
- 共有元の同意と経営収支データの保護
- 共有するデータの内容は、原則として共有元の同意を得るシステム設計とする。
- 利用者の経営収支に繋がるデータは、部会内であっても共有できない設定とすることが望ましい。
- データ共有の目的
- データの共有は、データの比較評価を通じて生産者の生産活動を支援するものであるため、その効果を最大化するために関係者とともに以下の点について継続的に取り組むことが望ましい。
- データ項目の定義と説明の明確化
- 生育調査の場合、生育指標の統一などを行う。
- データの品質向上
- 環境データの場合、測定手法の統一(例:国際標準への対応)や測定誤差の周知などを行う。
- 適切な提供データ項目と粒度の明示
- 品種や施設環境に応じた適切な粒度のデータ項目を明示する。
- データ共有の動機付けと共有相手への利益の還元
- データ共有機能により、自身の利益に繋がると考える者と利益を損なうと考える者の双方が生じうることを認識する。
- 産地全体の活性化(高位平準化)と利用者全体に利益が還元できる仕組み作りを継続的に検討する。
営農指導等への活用場面における留意事項(自己利用範囲における第3者へのデータ提供)
- 農業者個人が営農指導を仰ぐ場合
- 共有相手となる第三者との間で、データ不正利用の禁止、二次利用に関する制限など、利用目的を限定した契約を結ぶこと。
- 共有相手のデータの保管方法や営農指導後のデータの活用方法についても確認をすること。
- データ漏洩時のリスクを軽減するため、必要に応じて匿名化等のデータ加工を行い、個人の特定につながる情報提供を制限すること。
- 自身の所有する情報が自身のみの情報資産であるかの確認を行うこと(場合によっては、機械提供事業者のノウハウが含まれ、機械提供事業者の同意が必要である旨が利用規約などに明記されている場合もある)。
- 部会全体(複数名)で営農指導を仰ぐ場合(1.の記載内容の追加項目)
- 第三者へデータ提供をする際は個人の判断ではなく、事前にデータの内容、共有範囲、利用目的を示した上で、関係者全員の同意を得た後に実施すること。
- 営農指導を受ける際、部会内での意図しない個人の特定などが生じないよう、双方で認識合わせを行うこと。なお、収量や販売額など個人特定につながるデータを含む場合は原則、匿名化すること。
- 個別具体例 - 自治体が提供する営農支援アプリで自治体職員である普及員等が営農指導を行う場合
- 県職員(普及員)は守秘義務があるため、個人情報保護に関する誓約書は不要であるが、口頭での注意喚起は必要である。
- 生産者は県職員およびJA職員へのデータ開示に同意し、JA職員の個人名を同意書に記載する必要がある。また、JA組織内で担当者変更時には再度同意書に署名をもらう必要がある。