農研機構

スマート農業実証プロジェクト
第2弾

農研機構では、スマート農業が農業現場で活用されることを目標に、スマート農業技術の研究開発と普及を推進しています。NARO No.13に引き続き、農林水産省と農研機構で実施している「スマート農業実証プロジェクト」に参画中の実証農場を紹介します。

実証農場紹介3
(株)RUSH FARM

【実証課題名】水田地帯におけるAIとIoTを活用した葉菜類大規模経営の実証
【構成員】(株)RUSH FARM、(有)大坪物産、(有)伊藤園芸、(株)サンフォーユー、三井物産プラスチック(株)九州支店、(一社)食品需給研究センター、福岡県

実証代表者の永利侑太朗さん(RUSH FARM 取締役)、大坪政樹さん(大坪物産 代表取締役)、伊藤賢一郎さん(伊藤農園 専務取締役)から、お話を伺いました。

抱えている課題

福岡県久留米市・小郡市・大刀洗町は、小松菜や水菜といった葉菜類の周年施設栽培が盛んです。1年中出荷しているため、例えば水菜なら年7回ほど作付けを行います。1作にかかる作業は約10項目なので、施設が100棟あれば、年7回×10項目×100棟で、年間約7,000項目の作業と記録を行うことになります。
また、同地域は大規模経営の農家が多くありますが、畑を増やしたときに各々の場所が離れてしまうことがあり、より効率良く作業することが求められていました。

実証している技術

こうした課題を解決するため、生産管理クラウドサービス「AICA(アイカ)」を導入しました。以前から使用していた独自システムを改良したもので、気温・降水量などの気象情報、潅水・農薬・収穫などの作業情報に加え、作業者の歩数・心拍数といった人の情報を一括で管理できます。また、気象予報をもとに出荷日を予測することもできます。同様のシステムは他社にもありますが、作業のたびに全ての項目の入力が必要なものがほとんどでした。AICAは直前に登録した情報を再度表示してくれるので、同じ作業を続けて行う場合は開始・終了のボタンを押すだけで登録が完了します。1回に短縮できる時間は数十秒でも、年間7,000回行うことを考えるとこの差は大きいです。さらに機械が苦手でも操作できる画面など、使いやすさにも配慮されています。
今回の実証には3つの農業団体が参加しています。作業者の人数や習熟度、経営方針などが違う複数の団体の意見を取り入れることで、このシステムの汎用性や利便性を高め、より普及しやすいものにすることを目指しています。

良かったことと今後の展望

2019年夏に2回大雨でハウスが水に浸かり、約2週間出荷を止めなくてはならないほどの被害を受けました。しかし、AICAの情報があったことで、すぐに被害の規模や出荷予定などを整理することができ、出荷先への変更連絡や資材発注といった被害を最小限にする行動をいち早くとることができました。これも作業記録などをシステムで管理するメリットだと感じました。
栽培や経営の判断はまだまだ人の勘や経験が優っています。それでも10年20年と情報を入力して学習させつつ使い続けることで、いずれはすごいものに成長するのではないかと思っています。

ビニールハウス:多数のハウスが整然と並んでいた
ハウスの前で説明してくれた永利さん。ハウスには水菜が収穫直前まで育っていた

設立:1992年
住所:福岡県小郡市
従業員数 21名
面積:ハウス152棟、露地100圃場(合計25.3ha)
品目:水菜、チンゲンサイ、リーフレタス、キュウリ
平成24年に法人化して規模を拡大。売上も2倍以上になった。現在は九州全域に加え、京都・大阪・香港・台湾に出荷している。

実証農場紹介4
仙台ターミナルビル(株)荒井事業所

【実証課題名】企業による直売型果樹園経営におけるスマート農業生産体系の実証
【構成員】農研機構、東北大学、宮城大学、宮城県農業・園芸総合研究所、仙台ターミナルビル(株)

菊地秀喜さん(仙台ターミナルビル株式会社総合企画本部観光農業部専門監)、児下佳子さん(農研機構果樹茶業研究部門ユニット長)から、お話を伺いました。

スマート農業を導入する背景

農業を企業経営として行う上で重要なことは、「収益」です。収益を上げるには、単価を上げる、単位面積あたりの収量を上げる、経費を下げるの3つの方策があります。単価を上げるために、直売所での販売やお客様による摘み取り体験などを通して、果実の付加価値の理解を深める戦略を取り入れています。収量を上げる、経費を下げるために期待しているのが「スマート農業」です。従業員には農業熟練者と初心者が混在していて、経営者の視点では、熟練者が難易度の高い作業を行い、初心者はスマート農機を使って熟練者に近い働きができれば、全体として労働費の削減にもつながっていくと考えています。また、果樹栽培での重労働は労働災害につながりやすく、従業員にも企業経営にとってもリスクが高いです。この観点からも、スマート農業を取り入れようと思いました。

実証している技術

リンゴ、ニホンナシ栽培ではジョイントV字樹形を採用しています。この栽培法により、植え付け後2年目から収量が見込めます。また、低木仕立てで果実が摘み取りやすいところも、観光果樹園としては大きな利点です。スマート農機としては、リモコン式草刈り機、追従式農作業支援ロボット台車、パワーアシストスーツの実証を行っています。これらスマート農機を使って収穫した果実は、非破壊選果機で糖度と蜜入りの有無、果実の重さによって選別します。リモコン式草刈り機や選果機での作業は、初心者でも簡便にできるところがいいですね。ロボット台車やアシストスーツには、従業員の軽労化と労働生産性向上を期待しています。このようなスマート農機の導入で、単位収量あたりの販売収入を1.6倍に向上させ、かつ、栽培管理時間を3割削減することが目標です。

スマート農業に期待すること

人間は植物を観察し、瞬時に多くのことを判断しています。スマート農機は単純作業をすぐに肩代わりできそうですが、人に代わって判断する機能はこれからでしょう。スマート農業に最初に取り組む人は大変ですが、改良すべき点をあげて技術を進化させなければいけないですね。
2020年度に、仙台市荒浜地区に大規模観光果樹園をオープンします。そこでの果樹栽培にもスマート農業を取り入れて、労働生産性や収益性を向上させていきたいと思います。

省力樹形(ジョイントV字樹形等):果樹の摘み取りや栽培管理に適した広い通路も設置されている
リモコン式草刈り機
追従式農作業支援ロボット台車:作業者の後ろを、一定の距離を保ちながら、ついていく
パワーアシストスーツ:電力のいらない空気圧式で作動するタイプ
非破壊選果機:センサーで糖度、蜜入りの有無、重さを測り、決められた規格ごとに仕分けする

開業:2016年4月
「せんだい農業園芸センターみどりの杜」を運営。後継者不足や東日本大震災からの復興など課題がある中、生産性や収益性が高く安心して働ける農業へ挑戦。観光果樹園では果物狩り(ブルーベリー、ナシ、イチジク、ブドウ、リンゴ)、トマト狩り、直売所「みどりの杜カフェ」では、農園産の野菜果物を使ったオリジナルジェラートを製造・販売中。