ひろがる研究成果

国産レモンはいかがですか?
新品種「璃の香」

国内で販売されているレモンの多くは輸入品です。しかし近年、ポストハーベスト農薬処理を気にせずに皮まで利用できる国産レモンが人気で、スーパーなどでもよく見かけます。レモンは、細菌性の病気「カンキツかいよう病」にかかりやすいので、国産レモンの生産はかいよう病が発生しにくい条件のそろった地域、雨と風が少なく温暖な気候である瀬戸内海地域などに限られています。
農研機構では、カンキツかいよう病に強く、幅広い地域で生産可能なレモンの品種開発に取り組んできました。そして、リスボンレモンとかいよう病に強いヒュウガナツを交配することにより、2013年に新品種「璃の香」が誕生。「璃」は「宝」「ガラス」「水晶」という意味で、この品種のもつ透明感やすっきり感のある香りを表しています。
今回は、新品種「璃の香」の栽培に取り組んでいる佐賀県白石町と白岩果樹試験組合を取材しました。

レモンとヒュウガナツの子

璃の香は純粋なレモンではありません。ヒュウガナツの性質を受け継いでいるので、特徴のある華やかな香りがあります。

カンキツかいよう病に強い

かいよう病にかかると、果実や葉にコルク状の斑点ができて、商品の価値を下げてしまいます。璃の香は一般のレモンと比べてかいよう病に強いことが特長です。

まろやかな酸味

レモンにくらべると、酸含量が7割程度でまろやかな酸味です。果汁はたっぷりでジューシー! 果汁を搾るにもそのまま食べるにも、種が非常に少ないので使い勝手がとても良いです。

生育の特長

収量性が高く、一般的なレモンより寒さに強いです。そして、幅広いカンキツ栽培地帯で栽培ができます。苗木は2015年秋から販売されています。

皮は薄くて苦みが少ない

皮は薄くて手でむけます。苦みが少ないので、皮ごと利用するのもおすすめです。

収穫は9月から12月

若々しいグリーンレモンとして利用するなら、9月から収穫ができます。そのまま樹にならせておくと黄色くなり、11月下旬にはイエローレモンとしての収穫が始まります。

果樹茶業研究部門「璃の香」

生産者の声

佐賀県白岩果樹試験組合長下村弘己さん・白石町役場片渕英昭さんのお話

―「璃の香」を栽培するようになったいきさつを教えてください。

片渕さん:白石町は農業が盛んで、特産品としては、タマネギ・イチゴ・レンコンがあります。町として新たな特産品を探していたところ、佐賀県の果樹試験場から「璃の香」のことを聞いて興味を持ちました。また、2019年6月に「道の駅しろいし」がオープンし、立ち寄ってくださったお客様向けにも、新しい特産品がほしいと思っていました。「璃の香」も含めた新品種の試験栽培先を探したところ、白岩地区が引き受けてくださいました。

下村さん:新品種の果樹の試験栽培に向けて、白岩果樹試験組合を立ち上げました。ここ白岩地区は、戦後の食糧難の時に、戦地から引き揚げた人たちが開拓した場所ですが、残念ながら今は高齢化が進んで耕作放棄地が増えています。こうした放棄地を、どうにかしたいと思っていたところ、白石町から新しい特産品づくりを相談されて引き受けました。

―栽培の状況はどうですか?

下村さん:樹を植えて3年目になります(2019年時点)。昨年なった果実は2個(笑)、今年は1本の樹に50個くらいなっています。3年目でここまでなるとは思わなかったですね。年を追うごとに樹は大きくなっていて、目標は1本の樹に100個ならせることです。

片渕さん:今年は栽培のデータも取りましたので、これから白石町で栽培を促進しようと思っています。白岩地区のような中山間地域だけでなく、平地でも栽培できないかと考えています。

―「璃の香」の魅力を教えてください。

下村さん:「璃の香」は皮が薄くて種がほとんどないので、搾りやすいという特長があります。果汁を料理に取り入れるのもおすすめです。例えば、酢の物で酢の代わりに使うと美味しいですよ。栽培では、我々のみかんの栽培経験を生かしていますが、カラスやイノシシの食害を受けないところもいいです。たくさん生産して、「しろいし璃の香」としてブランド化したいですね。

片渕さん:2019年に栽培した分は、「道の駅しろいし」で試験的に販売しました。500個くらいは売れて好評でした。実のまま販売してもいいのですが、加工品としての可能性も大いにあると思います。例えば、ジェラートなどのようなスイーツはどうかなと考えているところです。「道の駅しろいし」の近くにインターチェンジができる予定もありますので、より多くのお客様にお買い物を楽しんでいただけるように、みなさまにご協力いただきながら「璃の香」を白石町の特産品として育てていきたいと思います。