農研機構

内藤 健 NAITO Ken

農研機構 遺伝資源センター
植物多様性活用チーム 主任研究員

アズキのなかまは、ワイルドでヤバい ~アズキ野生種の魅力~

アズキにはなかまが多く、その数、実に、108種。多くの人にとっては単なる雑草ですが、波打ち際や石灰岩の上などすごい所に生えているたくましい植物です。そんなアズキのなかまから、食糧問題が解決できるかもしれないヒントを得るべく、日々研究しています。

―内藤さんのお仕事を教えてください。

内藤 遺伝資源センターは、日本国内または海外から収集した遺伝資源を保管しています。収集された遺伝資源、中でも植物は、どのような特性を持っているのか分からないと、品種改良などの研究に使えません。私の所属しているチームでは、植物、特にイネやマメ、アズキの特性調査を担当しています。私はアズキの担当で、アズキ野生種の耐塩性に関与する遺伝子を取り出そうとしています。

―内藤さんが、アズキの研究に出会うまでの経緯をお聞きします。研究者になりたいと思ったきっかけはなんですか?

内藤 小学生の頃、科学雑誌をたくさん持っていて熱心に読んでいました。その頃すでに、将来は研究者になると思い込んでいました。

―農学部へ進んだのはなぜですか?

内藤 高校生の時、遺伝子組換え技術を紹介するテレビ番組を見て、いつかこの技術ですごい作物を作りたいと思いました。それと、当時ピュリツァー賞を受賞した「ハゲワシと少女」の写真を見て食糧問題を意識したことも、農学部を選んだ動機ですね。でも、大学に入学して専門知識を身につけるほど、遺伝子組換え技術でスーパー穀物を作って食糧問題を解決することは難しいのだと知りました(笑)。大学院では、シロイヌナズナを使って、放射線が誘発する染色体異常について研究しました。その後、縁あって渡米して、イネのゲノムの転移因子について、5 年ほど研究しました。この渡米中の研究成果が、私の過去の業績でピカイチです。

―なぜアズキの研究に魅了されたのでしょうか?

内藤 農研機構でアズキの研究者を募集していて、それに応募したことがきっかけで今があるのですが、最初はアズキの研究にはピンと来ませんでした。だから数年で成果を出して関西へ帰るつもりだったんです(笑)。でも、農研機構に入って2 日目に考えが変わりました。室長に連れられて、世界中のアズキが栽培されているハウスを案内してもらったのですが、目の前の光景を見て驚きました。同じ種類のアズキなのに、葉っぱの形、枝分かれの仕方、ツルの伸び方など、それぞれ違う。また、石灰岩に生えているもの、海岸沿いに生えていたものもある。「こんなに形質がバラバラな素材があるなら、ゲノムを読まなくてはいけないですよね」と聞いたら、「そう言ってくれる人を待っていました」と室長に言ってもらえたことをいまだに覚えています。自分のこれまでのキャリアは、このアズキ達に出会うためだったと錯覚しました。その夜、関西に残してきた妻に、「関西には帰れなくなった」と電話しました(笑)。

―アズキ野生種の耐塩性の研究をされていて、その成果はどのように発展すると思われますか?

内藤 アズキ野生種の耐塩性は、海水で育つ作物の開発に使えると思っています。今の農業における重要な問題の一つに、水問題があります。雨が降らないところでは地下水を汲み上げて農業をしていますが、地下水は枯れていく一方です。海水が農業に使えたら、水問題は解決するでしょう。夢のような話ですが、アズキの耐塩性をイネやムギへ導入できたら、高校生のときに夢見たスーパー穀物を海上農園で育てることができて、食糧問題の解決につながるかもしれません(笑)。

―研究に没頭されている毎日だと思いますが、お休みの日はどのように過ごしていますか?

内藤 読書をしていることが多いです。散歩や旅行など外出もしますが、つい道端の植が目に入って、何でここにナス科の花が咲いているんだろう、なんて研究の思考に戻ってしまうことはよくありますね。

ないとう けん (自己紹介) ●農学博士(京都大・2007)野生アズキの秘密を暴くために新妻との同居さえ諦めた男(その妻曰く「お互い様」)。修論研究は国の研究機関で、博論研究はアメリカの大学で行うという貴重な経験を得たが、それが現在のキャリアに活かされていると言える自信はないらしい。東京大学大学院新領域創生科学研究科客員准教授として学生に指導したりされたりしている。

内藤さんって、こんな人

要点を見抜く能力に長けノンストップで研究を進めていくスーパー研究者ですが、何事にもよく努力することが最も尊敬すべき点だと思います。院生時代は今よりもっとオーバーアクションで「明るく個性的でフレンドリーを頑張って演じているけれど実は内向的な人」でした。しかしそれも努力を重ね今ではだいぶ自然な(?)明るい人になったようです。明るく楽しく面白く研究したい方はぜひチーム内藤へ!

農研機構 遺伝資源センター 武藤千秋さん