農研機構

インタビュー 究める人

農研機構 中央農業研究センター
作物開発研究領域 稲育種グループ

主任研究員 長岡 一朗

先を見据えた育種に取り組む

2009年、農研機構中央農業総合研究センター北陸研究センター(現:中央農業研究センター北陸研究拠点)に採用。以来12年、稲育種グループでDNAマーカーの活用なども含めて多様な品種の育成に取り組んでいます。

近年需要が高まる中食・外食用のお米。おにぎりや弁当には冷めても硬くならないもの、寿司にはあっさりしたものと、用途は多様化しており、しかも低価格でおいしいことが求められています。こうした需要に応える新しい品種は、どのように生まれるのでしょうか。
新しいお米の品種育成に取り組む長岡一朗さんにお話を伺いました。

品種育成に関わって12年。二つの中食・外食用品種を開発

既存の品種を改良して新たな品種を生み出すことを「育種」と言います。ひとつの品種を育成するのに十数年を要し、育種に関わる研究者は常に複数の品種育成を行っています。長岡さんも約20品種の誕生に関わっており、2016年に品種化された「つきあかり」(特集2)は、早生で大粒、保温してもツヤとおいしさに優れた品種として中食・外食業界で広く利用されています。そして2018年、新品種「にじのきらめき」(特集2)が誕生しました。

にじのきらめき

早生で多収、良食味な中食・外食用のお米を求めて生まれたのが『つきあかり』。『にじのきらめき』は、縞葉枯病※1に強いこと、温暖化に伴う高温による検査等級の落ち込みに強いことの2点を目標において開発しました。

「つきあかり」は長岡さんが中央農研に採用されたときにはすでに育成が進んでいましたが、「にじのきらめき」は交配から品種化までの全工程に関わっています。いわば、長岡さんが生みの親。「にじのきらめき」は、一般的な育種のやり方(図①)で品種育成されたそうです。

交配したのは私が採用された年で、2018年に品種化されましたから、まさに一緒に育ってきたような感じですね(笑)。自分がいなかったら生まれなかったかもしれない品種ですので、そういった意味では良い仕事ができたのかなと思います。

10年先がどんな状況でも対応できる品種を揃えたい

『にじのきらめき』が本格的に市場に出ていくのはこれからです。中食や外食で使われるお米は、スーパーなどに出回らない可能性もあります。でも、米の販売業者さんや飲食店さんが品質を認めて『にじのきらめき』を利用してくれて、結果的に農家さんの収益に貢献できればうれしいですね。

また、育成時を振り返り、こうも語ります。

どんな品種も万能ではなく欠点もあります。例えば、『にじのきらめき』は縞葉枯病には強いですが、冷害には弱いです。また、トビイロウンカ※2などにも弱いかもしれない。これから普及が進めばいろんなことが明らかになってくると思いますので、いたちごっこではないですけれど、ひとつずつブラッシュアップできればと思います。

新品種を世に送り出すことが、〝育種の醍醐味〞だと語る長岡さん。そして、育種の未来、これからの取り組みについて、長期的な視野でとらえています。

『つきあかり』も『にじのきらめき』も、交配した段階から品種になるまで10年以上かかています。じゃあ、10年後に求められるお米は何か? と問われても、正直言ってわかりません。でも、必要に迫られてからつくり始めて、10年後に出来上がったときには『もういらないよ』となるかもしれません。なので、素材のラインナップをなるべく揃えておくことが、育種にとって非常に大切だと思います。急に需要が変わっても、ある程度切り抜けられる、そういう蓄積をしていくのが大事だと個人的に考えています。だから、考えついたものはなるべく交配しておくようにしています。もっともっと様々な稲の特徴を研究し、新しい発展につなげていきたいですね。

長岡さんや梶さんのように育種に関わる研究者たちは長い時間と労力を費やし、何が起こるかわからない10年後を見据えて、日本の米、農業の未来を支えています。

北陸拠点のほ場作業風景(田植え)
北陸拠点の水田に植えられた様々な品種
育種材料乾燥室で作業をする長岡さん
北陸拠点の稲育種グループの皆さん

※1:縞葉枯病(しまはがれびょう)稲のウイルス病のひとつで、ヒメトビウンカによって媒介されます。葉に黄緑色または黄白色の縞状の病斑があらわれ、生育が不良となり、やがて枯死します。後期感染では、黄緑色の条斑を生じ、穂が奇形となって十分に葉から出なくなる症状を示します。関東から東海地域を中心に発生が多くなっている病害です。

※2:トビイロウンカ稲を餌とする害虫。九州を中心に被害をもたらしていますが、2020年は西日本一帯で大量発生しました。

長岡さんって、こんな人

3人チームで基本的には1つの品種を育てるのですが、ほ場の配置や設計から作業をする人の采配まで研究室の作業のほぼすべてを取り仕切ってくれています。きちんと淡々と仕事をこなす番頭さんという感じ。「つきあかり」、「にじのきらめき」という多収・良食味米の大物品種が出たところですが、これからも今までどおり次に役立つ材料をコツコツと増やしていって欲しいですね。

農研機構 中央農業研究センター
作物開発研究領域 稲育種グループ
グループ長 梶 亮太