農研機構

特集2

養う 栄養を管理して育てる

「日本飼養標準」とは

牛乳、牛肉、豚肉、鶏肉、鶏卵などの畜産物には、人間にとって必要なタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルが多く含まれ、私たちの食生活にとって欠かすことができない食べ物です。これらの畜産物を安定的に生産するためには、エネルギー、タンパク質、ミネラルなどが過不足なく飼料に含まれている必要があります。
「日本飼養標準」とは家畜・家禽の成長過程・生産量に応じた適正な栄養要求量を示したもので、飼養管理の基本となるものです。家畜へ適切に飼料を与えて養い育てるため、行政、農家、教育などの分野で幅広く活用されています。
1963年に乳牛の「日本飼養標準」を刊行し、肉用牛、豚、家禽、めん羊と、順次まとめられ、必要に応じて改訂されています。
家畜を健やかに養うために重要な「日本飼養標準」は、農研機構畜産研究部門が事務局となり編集しています。

全5冊からなる「日本飼養標準」

畜産研究部門
研究推進部長
三森 眞琴

反芻動物の栄養が専門で、主に牛の第一胃(ルーメン)にいる微生物を研究してきました。温室効果ガスのメタンも一部のルーメン微生物が出しますので、それを減らす方法も調べています。

畜産研究部門 乳牛精密管理研究領域
乳牛精密栄養管理グループ長
野中 最子

乳は出るけどやせていってしまったり、栄養濃度の濃い飼料をやるとルーメンの微生物がうまく働かなくなったり。こうした原因を探る研究をしています。

畜産研究部門
高度飼養技術研究領域長
田島 清

豚の栄養が専門です。主に食品製造の副産物をどのように飼料に使うのかという研究をしていました。

「日本飼養標準」を編む研究者たち

畜産研究部門 研究推進部長
三森 眞琴

反芻動物の栄養が専門で、主に牛の第一胃(ルーメン)にいる微生物を研究してきました。温室効果ガスのメタンも一部のルーメン微生物が出しますので、それを減らす方法も調べています。

畜産研究部門 高度飼養技術研究領域長田島 清

豚の栄養が専門です。主に食品製造の副産物をどのように飼料に使うのかという研究をしていました。

畜産研究部門 乳牛精密管理研究領域 乳牛精密栄養管理グループ長野中 最子

乳は出るけどやせていってしまったり、栄養濃度の濃い飼料をやるとルーメンの微生物がうまく働かなくなったり。こうした原因を探る研究をしています。

乳牛の場合 「日本飼養標準」のデータは
どう取るの?

都道府県の試験場など全国の組織にご協力いただきながらデータを集め、農研機構畜産研究部門が事務局としてまとめます。もちろん、農研機構の研究所でもデータを取っています。今回は乳牛を例にしてどのようにデータを取るのか、特別に公開します!

飼料は牛のエネルギー

乳牛1頭当たりの年間乳量は1993~2018年の25年間で、全国平均で6,765kgから8,636kgへと1,871kgも増えました。乳を生産するためには牛にとって多くのエネルギーが必要です。乳量が増えると飼料の量も当然増えます(図1)。

図1 : 泌乳に必要な飼料の量(1日あたり)

摂取したエネルギーはどう使われるの?

摂取した飼料は乳になり、その過程で熱が出て、残りが排せつされます。飼料、乳、ふん尿などに含まれる熱量(エネルギー)を測定し収支を調べることで、摂取した飼料エネルギーがどこにどのくらい配分(図2)されたのかがわかります。こうして求めた結果は、「日本飼養標準」の基礎データとなります。

図2 : エネルギーの分配

なぜ測るの?

このデータは農研機構家畜代謝実験棟の呼吸試験装置(図3)を使って測定されます。適切な飼養管理には、飼料の栄養価や泌乳に必要な栄養量を正確に知ることが重要です。そのための施設が代謝実験棟です。

図3 : 農研機構 家畜呼吸試験装置

日本飼養標準はどう利用されるの?

家畜の栄養面だけではなく、家畜の大型化、多種多様な飼料、家畜の健康状態、気候変動など畜産業に影響を及ぼす項目にも対応しています。

気候

気候にあわせて栄養を与える

暑いとき、寒いときによっても必要な栄養素の量は変わってきますので、どういう栄養をどれだけ与えてあげればいいのかも書かれています。

栄養

新しい飼料の栄養価を知る

牧草などの粗飼料は日本でも品種改良されています。例えば新しく開発された飼料である飼料用イネ専用品種の栄養価などを測り、飼料設計のデータとして使えるようにしています。

環境

環境に優しい畜産のため

たくさん食べればたくさんのふん尿が出ます。ふん尿処理の過程で一酸化二窒素などの温室効果ガスが排出されますから、やはり適切な飼料の量を与えることは環境問題への取り組みにもなります。

品質

ベストな飼料をつくるために

家畜の成長段階でタンパク質はこのぐらい、エネルギーはこのぐらい必要ですという基準があります。例えば、配合飼料メーカーは「日本飼養標準」を参考に栄養成分を満たすように、どういう飼料原料をどう配合すればより良く、より安い製品ができるかを考えます。

品質

おいしい肉をつくる

飼料の与えすぎはコスト的に無駄なだけでなく、おいしく品質の良い肉になりません。例えば、豚は食いしん坊なので、あればあるだけ食べてしまいます(笑)。そうすると見かけは大きくても、お肉にすると脂が厚くなり、消費者から好まれません。必要な量や栄養を適切に与えるための手引書として「日本飼養標準」は必要なのです。

こぼれ話
 日本の飼料事情と取り組み

日本では穀物飼料を輸入に頼っており、穀物の取引価格が高騰すると畜産農家さんの経営を圧迫するという問題があって、国内でもっと飼料原料を調達しようとする取り組みが進んでいます。飼料用米や飼料用トウモロコシのほか、食品を作る際に出る大豆油搾りかす、焼酎かすなどの食品製造副産物が飼料に使われるようになってきました。牛では、これらはTMRという混ぜご飯みたいな飼料として与えます。食品製造副産物を利用することは、SDGsの観点からも定着してきています。常に「持続可能な畜産とは何だろう?」と考えながら、各分野の研究者たちは研究に取り組んでいます。