農研機構

特集3

育てる 発展するスマート放牧

日本の畜産業の課題

和牛の輸出拡大を目指すには、子牛の安定供給と増頭が必要です。しかし、家族経営のような小規模の繁殖農家は高齢化や後継者不足、重労働や低い収益性などの理由で離農が進み、子牛の頭数が減少しています。
※子牛を生産して販売する農家

高齢

重労

低い収益性

日本の畜産業の課題解決のための方法の一つが「周年親子放牧」です

周年親子放牧のメリットの説明

周年親子放牧のメリット

牛の飼い方には、牛舎で飼う「舎飼い」と草地で飼う「放牧」があります。
これまでは夏季を中心に妊娠確定牛を放牧するのが一般的でしたが、一年を通じて母牛と子牛を一緒に放牧する「周年親子放牧」の普及に向けて研究が進められています。牛舎が不要で、牛舎の清掃や飼料やりの作業時間が少なく、低コストで省力的な飼養形態です。また放牧飼養することで足腰が丈夫になり、牛の健康にもメリットがあります。

周年親子放牧でのデメリット

牛は広い牧場を動き回るため、牛舎のように、人の目が行き届きません。
管理面に課題があります。これらの課題を解決するための技術がAIやICTの利用です。


畜産研究部門 研究推進部研究推進室 山本 嘉人

周年親子放牧の研究に取り組み5年、ようやく普及段階に入りました。農村風景は人が管理してこそ美しく、自然任せでは荒れてしまいます。耕作放棄地の放牧は牛が草を食べ、景観もよくなります。放牧により生物の多様性が高まるというデータも示されています。

放牧開始時と20日後の比較写真

畜産研究部門 畜産飼料作研究領域 省力肉牛生産グループ長 中尾 誠司

畜産は、危険、汚い、キツい、臭い、稼げないという5Kのイメージを払拭! 周年親子放牧により「苦労せず、黒毛の牛を育てて、高収入」という新たな「3K」を提唱しています。

畜産研究部門 畜産飼料作研究領域 省力肉牛生産グループ長 中尾誠司さん

AIやICTを活用した技術を開発しデメリットを解消

人の目が届きづらい放牧は、放牧地からの脱柵や子牛の成長の管理、発情の確認など、牛の管理が難しく、経験や勘、技術のない新規就農者や未熟な作業者が参入する際の、大きな不安となります。そこで、AIやICTなどを活用して技術や経験を補い、遠隔で管理するスマート化をプロジェクトで実施。
「放牧って面白い」と、若い人が興味を持ってくれるといいですね。

AIやICTなどを活用した技術開発の紹介イラスト
畜産研究部門 畜産飼料作研究領域 省力肉牛生産グループ長 中尾誠司さん

「周年親子放牧導入マニュアル」が完成!

興味を持ったら「入門編」から

繁殖農家の新たな担い手を創出する周年親子放牧の導入マニュアルが完成しました。周年親子放牧の特徴を子牛の生産面と営農面から解説した「入門編」から周年親子放牧に有効な新技術を解説した「新技術解説編」まで。

周年親子放牧導入マニュアルの画像
畜産研究部門 研究推進部研究推進室 山本嘉人さん

コストが抑えられる周年親子放牧

耕作放棄地を活用

周年親子放牧では、放牧地内で母牛が分娩し、乳を飲ませて子牛を育てます。人の手があまりかかりません。補助飼料を給与する簡易な施設はつくりますが、牛舎は不要です。1頭当たりの放牧地面積は広くなりますが、増大する耕作放棄地を活用することができます。傾斜地でも構わないので、山でも放牧可能です。

畜産研究部門
畜産飼料作研究領域
省力肉牛生産グループ長
 中尾 誠司

畜産研究部門
研究推進部研究推進室
山本 嘉人

MESSAGE

研究にはキツいことも多いですが、現場で役立つ技術ができると苦労が報われる気がします。
子牛の安定供給とともに農村の活性化に貢献することが重要で、周年親子放牧はその手段の一つです。若い人が周年親子放牧により耕作放棄地などで農場を経営することで、全国の農村地域の活性化につながることを願っています。