農研機構

特集4

活かす 循環型畜産を目指して

家畜排せつ物の農業への利用

家畜を飼い養う上で、家畜からふん尿などの排せつ物が生じます。家畜の排せつ物を堆肥化し、その堆肥(※1)で農地の生産力を高められます。そして栄養価が高い作物や家畜飼料を育て、それら飼料で健全な家畜を育て、品質の高い安全・安心な肉や乳を生産できます。このような〝循環型〞畜産は持続可能な農業の理想です。ところが、日本人の食生活の変化で肉や乳の需要が増え、農業に求められる高い生産性に応えようとして化学肥料(※2)や輸入飼料に頼りすぎてしまうと、農地が年々やせてしまう一方で、牧場に家畜排せつ物が滞留してしまい環境問題を引き起こす危険性が生じます。

※1 堆肥 : 動物性の家畜のふん尿や植物性のわらや落ち葉などの有機物を微生物の働きで分解し、発酵、腐熟させた有機肥料の一種です
※2 化学肥料 : 土壌中で不足しやすい植物の養分を補給するため土に混ぜて利用する化学的に加工された肥料です。窒素、リン酸、カリが肥料三大要素です

温故知新、循環型畜産への回帰

家畜の排せつ物処理は畜産農家にとっては大きな負担です。農研機構では、これらの課題を解決するために、農耕の歴史の中で生み出された堆肥化を現代の畜産に合うようにアップデートしてきました。そのうちの一つが、従来の堆肥化で問題となっていたアンモニアの発生を〝資源〞として活かす技術開発です(図1)。また、堆肥化で生じる発酵熱をも回収し、家畜の飲み水などとして温水を利用できるようにしました。現在はこれらの技術が普及の段階に入っています。

図1 アンモニアを資源として活かす技術

家畜のふん尿を堆肥にする処理段階では、「におい」の主成分となる「アンモニア」が多量に発生します。このアンモニアを抑え、未だ使われていない資源として活用する方法が農業工学の視点から研究され、吸引通気式堆肥化システム(吸引通気方式)やアンモニア回収装置が開発されました。その仕組みをご紹介します。

  • ❶ 吸引通気方式
    堆肥の底部から空気を吸引することで、酸素が必要な微生物に新鮮な空気を供給しながら、アンモニアの放出を抑えて効率的に集めることができます。
  • ❷ アンモニアを回収する
    アンモニアはアルカリ性のガスです。吸引通気方式で発生したアンモニアの90%以上はリン酸などの酸性薬液で回収され、無色透明の窒素液肥として使えます。肥料成分を調整するため、堆肥と混ぜてペレット状の肥料にもできます。
  • ❸ 処理過程で出る熱を回収する
    アンモニアを回収した後の排気温度は50~60°Cくらいです。この排気を熱交換器に通すことで30~40°Cのお湯ができます。これを冬場の牛の飲み水に使うことができるため、牛からも農家さんからも大好評です。

さらに先を目指す!

さらに先にある循環型畜産を掲げ(図2)、農業分野の研究者が実現に向けて取り組みを始めています。例えば、水田輪作の中で、米や大豆などに加え、子実用トウモロコシを生産する取り組みです。水田農家にとっては、新たな安定した収入源となり、安全・安心な国産飼料を畜産農家へ提供できます。一方の畜産農家は、水田農家へ良質な堆肥を供給することで、家畜ふん尿処理の悩みから解放されて、水田農家の肥料費の削減を後押しします。飼料も肥料もできるだけ国内で生産・調達し、ICTやAIを使った省力化技術の利用や外部からの支援も受けることで、農家の皆さんが楽になり、潤い、さらに日本農業の足腰が強くなります。これが、研究者が目指すさらに先にある持続的な循環型畜産の姿です。

図2 研究者が目指す循環型畜産
今、畜産は
サスティナブルな時代へ

畜産研究部門 畜産飼料作研究領域 飼料生産利用グループ
上級研究員 阿部 佳之

MESSAGE

私の専門は畜産ではなく農業工学です。畜産の現場で先入観なく問題点や課題の状況を把握し、解決策を組み上げていくことに、農業工学出身者としておもしろさを感じています。耕畜連携※3の専門家としても胸を張れる研究をしていきたいと思います。
※3 耕畜連携 : 米や野菜などを生産している耕種農家へ畜産農家から堆肥を供給する、逆に耕種農家で飼料作物を生産し、畜産農家の家畜飼料として供給するなど、耕種サイドと畜産サイドの連携を図ること

牛と飼料、飼料と土の関係は密接していて比較的わかりやすいのですが、牛と土の関係、つまり、厄介者の家畜ふん尿を堆肥に変換し、堆肥で地力を高めていくことも循環型畜産の観点では極めて重要です。この循環の中でこそ、持続的な生産や経営が成り立つのだと思います。

こぼれ話
子実用トウモロコシの研究

水田で稲を育てていない時期に、子実用のトウモロコシを生産する研究が進んでいます。化学肥料だけで麦や大豆の水田輪作を続けていくと地力が落ちてしまいます。しかし、水田輪作の中に子実用トウモロコシを加えると、子実部分は家畜飼料として収穫し利益が得られ、残りの茎や葉っぱは細かくして水田にすき込むことで緑肥効果により地力増強が期待できます。耕種農家の飼料用トウモロコシの生産は、耕畜連携の好事例といえます。