農研機構

特集2

対策技術の研究

「知る研究」と「対策技術の研究」は互いにつながりあっています。
効果的、かつ費用対効果や省力化が考えられたものが、「使える技術」として普及していくのです。

シカの侵入
対策研究

シカが通れる隙間の解明にもとづく侵入防止柵

堂山 宗一郎
主任研究員
DOYAMA Soichiro

技術の
ポイント!

縦長の隙間では、ホンシュウジカの成獣メスが17.5cm、0歳が15cmの幅を通り抜けます。横長の隙間では、成獣メスが地面から27.5cm、0歳が地面から20cmの高さを通り抜けます。

❶17.5cmの縦長の隙間を通るメスのホンシュウジカ
❷地面から高さ27.5cmの横長の隙間を通るメスのホンシュウジカ

柵による侵入防止は隙間に注意

シカは背が高い見た目や、軽やかに走ったり飛び跳ねたりするイメージを一般的にもたれていることがあり、シカ対策としての侵入防止柵には「高さ」が求められがちです。しかし、シカは柵にできた隙間を狙って侵入することが非常に多い動物です。現場では「シカは足も長いし体も大きいから、これくらいの隙間は大丈夫だろう」といった思い込みから、柵の隙間が補修されず、シカに侵入された現場をよく見ます。では、どれくらいの隙間があればシカは侵入できるのでしょう。試験は本州に生息するニホンジカの亜種のホンシュウジカで行いました。その結果、ホンシュウジカの成獣は幅17.5cmの縦長の隙間や地際から高さ27.5cmの横長の隙間を通り抜けることがわかりました。

これらの結果を踏まえて、侵入防止柵の設置や維持管理、対策の指導や研修等の資料として活用していただき、効果的な被害対策につなげていただければと思います。

※ニホンジカでもキュウシュウジカやエゾシカは体の大きさが違うので結果が変わる可能性があります。

地面とネットが固定されていないのでシカに侵入された柵
イノシシの侵入
対策研究

イノシシの行動から考える有効な侵入防止柵の張り方

石川 圭介 主任研究員
ISHIKAWA Keisuke

イノシシの行動から侵入防止柵を張る3つのポイント

1つ目は、侵入防止柵は「隙間なく全周」に張ること。2つ目は、ネット柵、金網柵の場合は地際をしっかり留めること。3つ目は適切な高さに柵を張ること。イノシシの行動は柵の高さによって変わります。電気柵の場合は、地面から20cmと40cmの高さで柵線を張り、イノシシが柵線に触れたときに必ず電気ショックを与えられるように常に通電します。実際にほ場で柵の高さを測ってみると大体30cm、60cmと高めに張ってあることが多いです。40cmの高さだと「動物が柵を飛び越えてしまうだろう」と思い、高めに設置したくなりますが、20cmと40cmを守ることが大切です。

[ 被害ほ場の防衛状況 ]

侵入防止柵があっても、不適切な部分があれば侵入できます!

「防衛あり」
侵入防止柵が設置されている場合でも、すべての柵に不適切な施工が見られた
「開放部あり」
柵の一部が常時解放されている場合
「筆(ひつ)」
土地登記簿において、土地を数えるときの単位

技術の
ポイント!

イノシシの数が多いから被害が出ていると思われていますが、イノシシは普段のエサ探しの一環としてほ場の様子を時々探りに来ており、防護の弱点があれば侵入します。被害が大きいかどうかは防護がちゃんとできているかどうかに関わっています。捕獲では「どんなエサを使ったら捕まえられますか」とよく質問を受けるのですが、「ほ場の周りにしっかり柵を張って、わな以外に自由に食べられるエサ(作物)がなくなれば、捕獲できるようになります」と答えます。例えばほ場が100ある集落で、その中の50ほ場に侵入防止柵が張ってある集落と80ほ場に侵入防止柵を張っている集落では、後者の侵入防止柵でしっかり守っている集落のほうが捕獲率が高くなります。周辺のほ場がしっかり守られていることで捕獲数が増えることが研究で確認されています。

なぜ侵入防止柵を正しく張ると捕獲頭数が上がるのか?
ほ場にエサを食べるために侵入できなくなり、空腹のため捕獲わなに入ります。
なぜ侵入防止柵を正しく張ると捕獲頭数が上がるのか?
ほ場にエサを食べるために侵入できなくなり、空腹のため捕獲わなに入ります。

column
 獣の警戒心を利用する

元々獣は人間を怖がります。それは警戒心があるからです。獣は人に姿を見られたくありません。獣害対策で草刈りを勧めるのは、獣の隠れる場所をなくすためです。昨日までやぶだったのが、下草がきれいに刈られた空間になっていたら獣はビックリします。それが「慣れた道を警戒させる場所」へ変化させます。そういう変化は、犬を散歩させるおじいちゃんも作り出せます。人間のニオイや犬のニオイがしている、以前はなかったニオイに獣は敏感です。草刈りされた場所や昨日と違うニオイは、「何か違うな」「いやだな」という獣の心理に働きかけます。「この前と違う」というのはすごく有効なんです。人に対してゆるんだ警戒心を、もう一度呼び起こさせることにもなります。

柵も毎日ちょっと見回っていただければ、「あれ? 何かここ掘られてるな、獣が来ているな」と気付き、よく観察すれば「ここから入ろうとしてるな」、じゃあ「先手を打ってパイプで補強しようか」となリます。柵を業者さんに張らせて、今年はこれで大丈夫と何の働きかけもしないままでは獣を慣れさせてしまいます。警戒心を呼び起こすことはとても効果があり、重要なことなのでぜひ行ってください。

姿が丸見えなので、ここの集落には来たくない!
トタンの壁の隙間から出入り自由!人の気配もなく薮があるから、身も隠せます。
カラス・スズメの
侵入対策研究

カラス・スズメが侵入できない網目の条件

山口 恭弘
上級研究員
YAMAGUCHIA
Yasuhiro
吉田 保志子
上級研究員
YOSHIDA
Hoshiko

カラスを防ぐ網目は7cm×7cm

カラスの網目の試験では、自由意志で入らせた場合と強制的に通らせた場合という2通りの試験を行いました。

網を張った枠の中に「ごほうび」のビスケットを置いて、自由意志で入らせる試験の場合は、カラスが余裕で通れるはずの40cm格子でも入らない個体がいました。続いて、網を張った狭い枠にカラスを入れて強制的に脱出させる試験を行ったところ、10cmまでは試験を行った5個体すべてがスムーズに通りましたが、9cmでは4個体、8cmでは1個体しか通れず、7cmの網目は全く通れなかったという結果が得られました。

カラスは、他の鳥よりも賢くて警戒心が強いために、実際には通れる網目でも「何か危ないんじゃないか」と疑って、入らない場合があるようです。そのため、カラスにとって良いエサがたくさんあって魅力的な畜舎やゴミ置き場では、絶対に通れない網目サイズの網を張る必要がありますが、カラスの侵入意欲がそこまで高くない場所では、網目の大きい網や糸を張るなどの対策にも侵入抑制の可能性があります。

カラスではテグス設置も有効

カラス対策テグス設置技術

果樹園用 カラス対策
「くぐれんテグスちゃん」
畑用 カラス対策「畑作テグス君」

研究の
ポイント!

カラスでは、翼を広げた両端までの長さとほぼ同等の1m間隔に透明テグスを張ると、侵入が減ることを大型ケージでの飼育試験で明らかにしました。

そこで、カラスの侵入対策として農研機構が開発した技術が果樹園用の「くぐれんテグス君」と畑作物用の「畑作テグス君」です。設置作業が簡単な改良版の「くぐれんテグスちゃん」も登場し、NARO Channelの動画や標準作業手順書も公開されています。

スズメは2cm×2cm

スズメでは、防鳥網、亀甲金網、防獣ネットなど、複数タイプの網を用い、かつサイズを変えて試験を行いました。これらの網で四方と上面を囲った中にエサを置いて動画による解析を行ったところ、スズメが侵入できない網目サイズはどの網でも2cmが寸法の境界であることがわかりました。防鳥網なら2cm×2cmより小さい目合が必要です。スズメはカラスと違って自由意志でも網目サイズぎりぎりまで体をねじこんで侵入し、侵入できない網目サイズになると、枠の下の土を掘って侵入する個体が出てきました。このことからスズメの侵入対策には、地際の対策をしっかりすることも大切だといえます。

研究の
ポイント!

野生の鳥や獣が通り抜けられる隙間のサイズは、外見から想像する以上に小さいことがほとんどです。「この網目の大きさなら大丈夫だろう」と思っても、侵入されてしまうことはよくあります。畜舎ではカラスやスズメの侵入意欲が高いので、確実に防げる網目のサイズを、根拠のある数値で示すことが侵入防止対策に重要です。

生息環境管理計画のための研究

社会科学の視点で考える獣害対策

中村 大輔 主任研究員
NAKAMURA Daisuke

情報収集で被害地の課題発見

福島の帰還困難区域へ研究のために出かけています。「以前は、街中に動物がいなかったのに、帰還すると、街中でイノシシやアライグマなどの動物がたくさんいる」と帰還した住民の方々が話される。不安なのかなと思えば、「イノシシがいないと竹林が荒れて困る」などと寛容にも状況を受け入れているようでした。これが農業を再開し、農作物が食べられると寛容さが消え、農業がやりづらい、住みづらい土地と認識されるかもしれません。帰還住民のみなさんが暮らし、農業をする間近にイノシシやアライグマが多数生息する状況はよくないので、農地や住宅地付近の捕獲や生息環境管理計画に向けた情報収集をおこなっています。

一般的に、社会科学は私たちが暮らしている「社会」を研究する学問です。ルールやルールの運用の仕方、生産と消費活動、社会を構成する組織やそこで起きている現象などが研究対象になります。獣害の被害地において「何が問題か」を探ることで、課題の発見に至る技術なのかなと捉えています。帰還住民や帰還を支援する行政機関と話をしながら、どのようなことが問題なのかを聞き取り、災害対策準備行動を応用するなど多角的な視点で問題を探り、そして調査したデータは対策を実施する側への提言となればと思います。

研究の
ポイント!

住宅地のような都市部でもイノシシやサルなどの獣類が出没してゴミを漁る、庭先の柿等を食べてしまうなどの被害が増加しています。これらの被害に対して、柿の木を管理することやほ場に廃棄する農作物をそのまま放置しないなど、事前に取り組むべき対策方法はあるのですが、すべての住民が対策に積極的ではありません。そこで、「なぜ、積極的になれないか」を調べるために、災害対策準備行動の考え方を応用した被害リスクと住民意識の因果関係を探るアンケートを取って分析しました。

アンケートの例
5段階であてはまる番号に○を付ける。
問 : あなたがお住まいの地域の印象についてお伺いします。

※災害対策準備行動

一般住民自らが防災・減災に対する知識と意識、さらには日常生活上の十分な備えのもと災害発生時の対処能力・セルフケア能力を高めること。

強く思う 少し思う どちらともいえない あまり思わない 全然思わない
住み心地が良い 5 4 3 2 1
隣近所と仲が良い 5 4 3 2 1
愛着を感じる 5 4 3 2 1
ずっと住み続けたい 5 4 3 2 1
安全である 5 4 3 2 1
地域のまとまりが強い 5 4 3 2 1
地域を誇りに思っている 5 4 3 2 1