農研機構

タイトル:特集2 農研機構の最新AI研究

AI識別

衛星とドローンを使った
リモートセンシング技術

上空から撮影した画像をAIを使って解析することは、作物の生育状況や収量を把握する上で極めて有効な技術です。「衛星画像とドローン画像を使い分ける時代が来た」と強調する石原上級研究員にお話を伺いました。

農業情報研究センター
AI研究推進室 画像認識ユニット
上級研究員 石原 光則

用途によって衛星とドローンを使い分け

リモートセンシング技術とは広義的には離れた場所から広い範囲を観測する技術のことを指します。基本的にはカメラ(センサー)で画像を撮影し、それを解析して何かに役立てることを言いますが、撮影手段として使われるのが一つは衛星、一つはドローンです。いずれも広い範囲を一度に撮影できますから、農地のような広い範囲を面的に把握できるという利点があり、作物の生育状況や収量を把握するのに役立ちます。言うまでもありませんが、この2つは撮影できる範囲が大きく異なります。衛星だと広範囲が一度に撮影できますが、ドローンだと100m程度の上空からになりますから、撮影できる範囲は狭くなります。したがって地表にある作物を広範囲で見たいか、数センチ単位の細かさで見たいかによって使い分けていくということになります。ほ場を広く観測して作物の状態を把握したいのなら衛星を、逆に病虫害被害のように細かく見ないとわからないものに関してはドローンを使うというような使い分けです。

図 1 宇宙:光学衛星画像、2 高度100m 程度:ドローン空撮画像

始まった衛星コンステレーションへの挑戦

農研機構では「ドローンを利用した広域リモートセンシング技術」の開発を進めていますが、これは人の目で見えない波長域を可視化できるマルチスペクトルカメラをドローンに搭載したこと、さらにカメラの性能が進化したことによって実現できたものです。ただ、画像を撮影するだけでは意味がなく、草高、草丈、葉色のような生育状況を確認するための地上で蓄積されたデータがないとモデルはつくれません。多くのデータを基にして解析する必要があるため、ここでAIが大きな役割を果たします。その意味で、この開発には現地のほ場での調査や、そこでの生産者の方々との意見交換が欠かせませんでした。

今後の課題は、ドローンを使ったリモートセンシング技術の進歩がひと段落したことで、衛星を使ったリモートセンシングをさらに進化させられないかということです。光学衛星は雲があると撮影できませんし、大きな衛星だと2週間に1回とか1カ月に1回といった撮影頻度になってしまいます。そこで小型の衛星をたくさん打ち上げて毎日上空から撮影できないかという案が出てきました。衛星コンステレーションと呼ばれるものですが、こうした研究もすでに始まっています。

AI予測

AIによる精度の高い
みかん糖度予測手法

みかん農家の収益を高めるのに欠かせない糖度の早期予測。それをAIによって可能にしようという研究が長崎県、JAながさき西海と農研機構との間で始まり、成果が生まれました。

農業情報研究センター
AI研究推進室 多変量解析ユニット
上級研究員 森岡 涼子

早い段階で温州みかんの糖度を予測

みかんの糖度予測は、収穫の時期や、取引価格に大きく影響します。従来は数人ですべての園地を回って調査し、統計的手法でこの糖度予測を行っていました。一方で、とくに年末から年明けにかけて収穫する晩生型では、せいぜい10月頃からしか糖度予測できないというのが実態で、大きな課題となっていました。とはいえ、卸売業者との価格交渉は夏ごろに行われるので、どうしてもリスクが伴います。もし7月や8月に晩生型の糖度予測ができれば、農家にとっても取引する側にとってもメリットです。そのため、長崎県とJ Aながさき西海から「AIを使ったみかんの糖度予測ができないか」というお話がありました。AIを使うには大量のデータが必要ですが、JAながさき西海では今までのデータが電子ファイルに蓄積されており、データを利用できるのではないかというところからスタートしたのです。過去データを基に気象データも組み合わせ、晩生型も含めて夏ごろに糖度を予測し、より良い交渉につなげたいという要望でした。

糖度のほか収量などの予測にも挑む

当初、長崎県とJAながさき西海の方たちは相談したものの「できないであろう」と思われていたみたいです。しかし長崎県の場合、海寄りとか山間部とか、いろんな場所でどんな気象があって、どう影響したかということが特徴として抽出できたことから、かなり正確な予測ができるようになりました。AIの機械学習技術を用いることで、出荷時のみかんの糖度を地区ごとに、品種・系統別に予測し、実用性の高い精度で結果が得られることがわかりました。また糖度予測だけではなく、より品質の高いみかんにするための栽培管理のための情報提示も可能となりました。糖度を上げるには水管理が非常に重要ですが、予測を利用することで、データに基づいた情報を参考に、県の指導員が「もっと水を減らしたほうがよい」などとみかん農家へ具体的なアドバイスをすることができるようになります。栽培管理法はみかん農家の方が最終的には判断されるのですが、栽培管理における決断をサポートすることもAIが可能にするものの一つと言えます。すでに長崎県の指導員の方の間で活用が始まっているとの声をいただいています。長崎県以外での利用の話も進んでいるほか、糖度のほかに収量の予測もできないかとの要望もあり、研究を進めています。

収穫の半年も前に糖度予測ができるとは思っていませんでした!

長崎県 JAながさき西海かんきつ生産関係者の皆様