農研機構

タイトル:インタビュー 究める人:画像認識を究める人。「異分野との
Researcher File → Number/003

農業情報研究センター
農業AI研究推進室
画像認識ユニット
ユニット長杉浦 綾
SUGIURA Ryo

略歴

2006年 3月
北海道大学大学院博士後期課程修了、博士(農学)
2006年 4月
農研機構 九州沖縄農業研究センター 研究員
2011年 4月
農研機構 北海道農業研究センター 主任研究員
2014年 8月
アメリカ・カーネギーメロン大学 客員研究員
2015年12月
科学技術振興機構さきがけ研究員
2019年 2月
農研機構 農業情報研究センター 上級研究員
現在、ユニット長

「北海道大学といえば札幌農学校が前身の大学。農学部に憧れて入学した」という青年が、植物科学や生物学ではなく画像認識技術で日本のスマート農業の発展に重要な役割を担う研究者となるまでのストーリーです。

自分を信じて

憧れて入学した農学部ですが、植物科学や生物学が自分の感性には合わず悩んでいたところ配属された研究室は、ロボットトラクタや画像解析を研究テーマにしていました。自分の感性にピタリとハマった研究に出会えて夢中になりました。ロボットの研究にしても画像解析の研究にしても、プログラミングは必要です。プログラムが書けると本当に研究がスムーズに行くっていうことに気づき、「将来、絶対にプログラミングは自分の研究に活かせるだろう」と信じてプログラミングの勉強を大学・大学院、農研機構に就職してからも一生懸命に取り組みました。10年ほど前は、画像解析を農業に取り入れる研究はまったく盛んではなく、むしろ「そんなの必要ない」という時代でした。「プログラミングなんて農学には一切活きない」とはっきり言われたこともありました。それでも、自分を信じて一生懸命勉強し、画像認識に関するプログラミングの知識を深めるため、アメリカへ渡りました。

「さきがけ」研究員に選出

アメリカでは、コンピューターサイエンスで世界一のカーネギーメロン大学で研究していました。そのアメリカでの1年が終わろうとしていて、帰国後にどんな研究をやっていこうかと考えていたとき、戦略的創造研究推進事業「さきがけ」※2の提案募集を見つけたのです。「ここで勉強したことを活かせる」と思い、この制度に応募しました。「さきがけ」の研究は植物科学や栽培研究と情報科学の融合というコンセプト※3のもとで実施されました。このような異分野を融合させ、イノベーションの創出につながる新たな学問を創るというのは最近の新しい考え方なんですね。選ばれた時は、自分を信じて取り組んできたことが「活きた」と思いました。審査の時、画像認識技術を使えば、ドローンから撮影した画像から作物のいろいろな情報がわかってくるということをデモンストレーションしました。アメリカの研究者から学んだことですが、事前に検討に検討を重ねるのではなく、勢いよく開発を進め、デモンストレーションしてみせる。そのような姿勢を評価されたのではと思います。

大学院時代はドローンと呼ばれるものはなく、農薬散布用のヘリコプターを改造し、カメラやコンピューターを載せて空撮していました。農研機構に入り北海道農業研究センターに配属された2011年当時でもドローン自体は特殊で、1,000万円するような高価な機械でしたので、20万円ほどの材料で自作し研究を始めました。すべて現在の画像認識の研究につながっています※1

注釈

※1NARO RESEARCH PRIZE 2020ドローンセンシングによる農業情報利用技術の実用化
https://www.naro.go.jp/project/results/research_prize/files/prize2020_2.pdf

※2科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業 さきがけ(Precursory Research for Embryonic Science and Technology)。 国が定める戦略目標の達成に向けて、独創的・挑戦的かつ国際的に高水準の発展が見込まれる先駆的な基礎研究を推進する目的で創設されたプログラム。

※3杉浦ユニット長は「情報科学との協働による革新的な農産物栽培手法を実現するための技術基盤の創出」研究領域の第1期生(2015~2018年度)。プログラム・ディレクターは二宮 正士東京大学大学院農学生命科学研究科 特任教授。

新しいことを目指すには

農研機構に入って、最初の配属が九州の宮崎県都城市、次に北海道の芽室町と地域に根ざした研究拠点を異動してきました。研究者は作物や生産者と向き合い、会話の中から研究のヒントを得ることがあります。画像認識技術をより生産現場で役立つ成果にするには、パソコンの前でプログラムを作っているだけではなく現場で考える時間も必要です。ユニット長として、若いユニットメンバーへ、どんどん現場に出て、研究対象の作物をよく見る、作業を経験してみる、実際に畑を歩いて何かしら感じ取ることを心がけて欲しいと伝えています。気候や土壌のこと、生産者さんが何を考えているかとか、何を必要としているか。そういったことを総合して考え、進めるのが研究の理想だと思っているからです。農業研究は気象、土壌、作物の種類、栽培管理、機械など複合的な要素が絡み合った複雑な研究分野です。1つの専門だけでは、できる研究は限られ、新しい研究をするにも限界があります。だからこそ、他の分野と一緒になって「合わせ技」で新しいことを目指す。自分の専門だけではなくて幅広い分野に関わりながら研究していくことが、今からの科学には必要だと思います。

レーザー照射による害虫駆除(イメージ)

取り組んでいること

今、複数のプロジェクトを進行させています。一例は、作物を荒らす害虫をカメラで画像認識して、高出力なレーザービームで撃ち落とすというような研究です。植物防疫研究部門の害虫の研究者と一緒に研究しています。

ユニットのメンバーと研究の進捗について会話する杉浦ユニット長
ほ場でドローンの飛行の様子を観察する

メッセージ

私がアメリカで画像認識の勉強をしていた時も、農学に画像なんて必要ないという向かい風の状態でした。賛否両論というか批判が大きいほうが研究としては面白い。当時を振り返ると面白かったなと思います。今は、画像認識は注目されている分野ですが、自分は逆風が吹いている時のほうが楽しかった。若い人にも新しいことを自分で思いつき、始めて欲しいと思います。苦しいときがあるかもしれないですが、時に苦しいことを選ぶと楽しいこともあります。逆風を楽しんでもらえたらいいなと思います。

志をともにする仲間たちと

杉浦さんてこんな人
誰に対しても公平に接してくれます。尊敬する人です。

農業環境研究部門
土壌環境管理研究領域 農業環境情報グループ
研究員森下 瑞貴
MORISHITA Mizuki

農業情報研究センターでご指導いただいたことがきっかけで、それ以降もAIやドローンの活用に関する研究のお手伝いをしています。誰の話も否定せず耳を傾けて話を聞いてくれるので、いろんなアイデアが話しやすいです。私だけでなく、ユニットメンバーの方たちも同意見だと思います。すごい研究者なんですけど、気さくなんですよ。

研究以外のことを聞きました!

My answer

AIで実現できることはもっとあると思います!まだまだ入口くらいです

★気分転換は筋トレ 趣味はウェイトトレーニングです。嫌なことがあってもトレーニングでパッと忘れちゃいます。最近は嫌なことがほとんどなくなりました。いざとなったら筋肉が助けてくれると思えるからでしょうか。いい気分転換です。今年こそフィジーク大会で優勝したいです。

★妄想(?)未来予測 SF映画で描かれたことが、現実になるのは確かだと思うんです。例えばロボットが農業を担うのは近い将来そうなっていると思います。完全に自動ではないにしても、かなりの部分をロボットが作業し、作物を作っていくような。その中でも画像認識は多用されると思います。

※フィジークは、ボディービルコンテストのカテゴリーの1つで、夏の海辺でサーフパンツを穿いた男性が最もかっこよく見える姿が理想とされる。