
農業機械研究部門 安全検査部安全評価グループ 兼 システム安全工学研究領域 協調安全システムグループ
グループ長補佐紺屋 秀之
KONYA Hideyuki
略歴
2002年4月生研機構 生産システム研究部 研究員
2014年4月生研センター 評価試験部 主任研究員
2020年4月革新工学センター 安全検査部 ユニット長
2022年4月現職
様々な農業機械の研究・開発に長らく関わってきた紺屋秀之グループ長補佐。いわば、農業機械を知り尽くした研究者の一人です。研究・開発に関わってきた経験を生かして、農業機械の検査や安全性に関する研究、安全規格作りを行っています。淡々と語る言葉の中には、日本の農業機械の安全を究めたい研究者の思いが込められていました。
医療系志望が転じて
もともと医歯薬系に進みたかったのですが、入試に失敗。一浪して再度挑むもまた失敗。そこでこれ以上親に迷惑をかける訳にもいかない、ということから、後期試験で農学部を受験し、合格したことが農業分野に進むきっかけになりました。3年の時に農業機械分野を選択し、コンバインのクローラー※1に起因する振動軽減に関する研究に取り組みました。修士課程の2年になった時、このまま大学院に進むか就職するかで悩みましたが、就職するにしても農業機械の仕事はしたいと思っていましたから、国の研究機関で農業機械の研究ができ、開発にも携われるというので農研機構へ入りました。
- 注釈
- ※1クローラー無限軌道や履帯とも呼ばれる
農業機械開発から検査・鑑定の世界へ
最初は当時の生研機構の生産システム研究部という部署に在籍し、主に耕うん、整地、施肥、播種用の農業機械の研究開発に従事しました。また、大規模農業に適した高速で播種できる直播機や今のスマート農業の走りである精密農業※2に関する研究の一環として、無人ヘリにセンサをつけて水田を上空からセンシングし、稲の生育状況を推定する生育情報測定装置といった機械の開発に携わりました。12年間ぐらいは様々な農業機械の研究開発に関わってきました。その後、当時の評価試験部に配属されました。評価試験部では検査・鑑定といって具体的には、農業機械の性能や機能、安全性を評価するという業務を行うのですが、それまでの研究開発の業務とは異なり、仕事の内容ががらりと変わりました。そして検査・鑑定に携わりながら研究課題を持たせてもらい、安全性に関する基礎研究的なことにも取り組むようになりました。
- 注釈
- ※2精密農業 プレシジョン・ファーミングともいい、農作業現場から収集したほ場や作物、農作業などの各種データを蓄積し、分析することで、農業の効率化を図るという考え方


将来的には遠隔でロボット農機を監視できるようになるだろうと見越した実験。トラクター上部にカメラをどう搭載すれば、監視者に360°見えるかを検証するための実験に取り組んでいる。
最終の出口は農作業の安全確保
安全検査部(旧評価試験部)は農業機械メーカーからの検査依頼に対応することが主要な業務ですが、この部署では研究・開発をメインで行いメーカーと共同で何かを開発するという関係性ではなく、「検査する側」と「検査される側」という関係性になってしまい、異動当初は戸惑うこともしばしばありました。検査される側のメーカーとしては、もちろん安全性を考慮した上で設計・開発した機械を検査に持ち込むわけですが、それでももしも安全性に不備がある場合には検査する我々側としては、改善・改良を要求する、場合によっては不合格にしなければならないことも出てきます。メーカーに対して安全のために「ここをこうしたほうがいい」と伝えるわけですが、メーカー側にしてみれば、コスト高になるようなことはできる限りしたくない。ましてや設計から変えるとなるとメーカー側の負担は大きい。そこで、我々はメーカーへの「説得」に苦労することになります。我々もメーカーも最終的な出口は同じで「農業をされる方が安全に作業できる機械を提供する」ということですので、お互いにじっくりと協議を行い、その点について理解していただけるよう努めています。それだけに、メーカーがより安全な対策に応じてくださった時は、安全への思いが通じたようで、うれしさは格別です。
安全に関する国際規格づくりに参加
現在は、スマート農機と呼ばれる自動化農機やロボット農機などの安全性に関する検査や研究を中心にしています。もう数年になりますが、農林水産省を中心としてロボット農機の安全のためのガイドラインを策定する委員会のメンバーの一人として策定作業に携わってきました※3。またロボット農機の安全に関する国際規格※4というものもあって、それにも日本の委員の一人として参加しています。国際規格の策定では日本のメーカーが開発した技術などが受け入れられるよう日本側の意向を伝えていくことのほか、日本で実施している検査方法を英訳し、国際規格に反映させるような取り組みも行っています。こうして2018年に発表されたのが国際規格ISO18497:2018であり、その後の改訂作業にも関係しています。自分がゼロから関わったロボット農機の検査方法がISOの国際規格に反映されたらこんなにうれしいことはありません。これから遠隔監視型のロボット農機や新しい自動化機械が次々と出てくると思いますが、我々としてはそうした先進的なロボット農機を検査するための手法や装置の開発を通し、日本における農作業の安全の確保に貢献していければと思っています。
- 注釈
- ※3「農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン」
※4「Agricultural machinery and tractors ‒Safety of highly automated agricultural machines‒Principles for design(ISO 18497:2018)」
紺屋さんてこんな人
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安全検査部 安全評価グループ 兼
システム安全工学研究領域 協調安全システムグループ
研究員小林慶彦
KOBAYASHI Yoshihiko
視野が広くて、いつも冷静な方です。困っているとき、話しかけてくれたり、相談に乗ってくれたりします。とても気をつかってくれます。
安全検査部
安全評価グループ
研究員深井智子
FUKAI Tomoko
私にとってはお兄さん的に頼りになる方です。若手にとっては、手本となるような存在です。
★My answer★



★国際会議での立ち回り方 国際会議の出席者として重要なのは英語の「聞きとり」能力よりも「話す」能力です。私が参加している規格策定のワーキンググループは、多様な国のメンバーで構成されています。「なにを今更聞いているの?」みたいな単純な質問もあるのですが(笑)、非英語圏のメンバーはブロークンな英語でも気にせず発言をします。でも、ちゃんと誰かが応じて答えています。日本人にはない、アピール力ですね。国際会議に出席するようになり、日本代表として日本のために主張もしなければなりませんので、奥手だった私もどんどん発言し、主張する度胸がついたと思います。