農研機構

インタビュー 究める人

農研機構 野菜花き研究部門
花き生産流通研究領域 生産管理ユニット

ユニット長 久松 完

花きの国産シェア拡大を目指して

大学卒業後、農水省に採用。1992年10月に当時の野菜茶業試験場の花き部に配属。以後、花の生育開花の仕組みの理解と、それに基づく技術開発を研究課題として取り組む。現在は、開花調節技術の開発、花きの計画生産の研究成果と生産、流通の現場での課題解決を結びつけるプロジェクトに取り組んでいる。

花きの生産・流通、消費における課題とその解決へむけた研究活動、そして日本における「国産シェア奪還」を目指してどんな取り組みが行われているかを研究者の視点で語っていただきました。

大発見「アンチフロリゲン」

農作物は花が咲いて実ります。だから、収量を上げるためにも、「なぜ花は咲くのか?」と研究者たちは100年ほど前から研究し、1920年に日長に反応して開花を決める仕組みがあることが発見され、1936年には植物は、葉で日長を認識して開花を決めるホルモン(フロリゲン)を作るという仮説が提唱されました。しかし、このフロリゲンはなかなか発見できず、幻のホルモンと呼ばれるようになっていました。それが、提唱から70年の時を経て2009年にイネとシロイヌナズナで同時に発見されたのです。私たちも「キクを知り、キクを操る」のコンセプトで研究に取り組み、キクのフロリゲンを確認しましたが、これだけではキクの開花反応を説明しきれませんでした。フロリゲン説の提唱と同時期に「開花抑制物質の存在」を示唆する結果が示されていましたので、そこからは、古い文献を洗い直し、現象の観察にしっかりと取り組みました。当時、私たちの研究室規模でも網羅的に遺伝子発現を調べられる時代が来ていたことも幸運でした。そして遂に、花を咲かせないように働く情報伝達物質「アンチフロリゲン」を仲間と共に発見し、日長によるキクの開花の仕組みを明らかにできました(図1)。観察と時代に合ったツールの融合、そして一緒に研究に取り組んでくれた仲間という3つの要素が揃って、発見できたと思っています。いろいろな人との巡り合わせがあって、この成果をはじめ多くの発見に携わることができ、これらの発見が様々な技術開発に繋がり幸せに思っています。

図1 アンチフロリゲン(AFT)による開花抑制

野生型(左)のキクが開花する短日条件においても、AFT遺伝子を過剰発現する遺伝子組換え体(右)は開花しない。
写真は短日条件において56日目の様子

世界で初めて明らかに!

「アンチフロリゲン」の発見は2013年。
花を咲かせないように働くホルモン様物質「アンチフロリゲン」とその遺伝子を、世界で初めて明らかにした画期的な研究成果でした。

開花技術の開発が進む

花を咲かせるホルモン様物質(フロリゲン)と咲かせないように働くホルモン様物質(アンチフロリゲン)の両方の存在が明らかになったことは、花の開花時期を自由に制御する技術の開発に大きく寄与しました。

研究成果が花き業界に与えた影響

花の開花調節は、花き産業にはとても大切です。植物には春に咲く花と、秋に咲く花とそれぞれの特性がありますが、「1年中欲しい」「必要な時期に欲しい」という需要に応えるため、開花調節の技術開発が進んできました。花き業界には、お盆やお彼岸、年末年始、母の日などの特異な需要期があり、数日の間に、通常の販売量の10~20倍という需要のピークがやってきます。日程に合わせて供給して欲しいという、販売側のニーズがありますから、開花の仕組みがわかったことで、その理解に基づいた品種選定や調節技術によってより供給の精度を上げることができ、花き業界への貢献に繋がっていると思います。

花き業界が抱える課題

1995年頃が切り花の消費のピーク。今は30%ぐらい消費が落ちています。消費拡大が業界一丸となって取り組む課題です。こうした厳しい状況下で国産花きの流通量は減っていますが、輸入は増えているんです。輸入されるのは、定番のカーネーションやキク、バラですね。特にカーネーションとキク類が増えています。国内にある需要をターゲットに輸入品が占めるところを、再び国産でシェア奪還するのが生産・流通側の1つの目標です。そのためには、生産と流通の効率化と計画生産・安定供給が必要だと考えています。私たちの開花調節の技術は計画生産といった場面で貢献できると思いますし、それと共に研究で培った論理的思考と客観的にみる力で業界の皆さんのお役に立ちたいですね。

近年、消費者の花の購入先は変化しています。スーパーなどの花売り場が増え、花き専門小売業が減っているのです。野菜や食肉がたどった道を、20~30年遅れてたどっているのが花き業界です。スーパーはお客さんが買いやすいように数種の花をパックして定額販売しますが、こうした状況では花材の原価は自ずと決まってきます。これまでの花き生産の歴史を背景に丹精込めた花を高単価で販売したい生産者と販売者の考え方にギャップが生じています。互いに利益を残す方策を、生産や流通、販売が一体となって考える必要があると思い微力ながら活動させてもらっています。しかし、それぞれの立場がありますので非常に難しいですね。

秋田県男鹿・潟上地区園芸メガ団地でのスマート農業実証事業ほ場

露地での大規模な小ギク生産に機械化、ロボット化、IoT化の導入を検討しています。
久松さんは、農研機構の代表として6社5団体と共に、スマート農業を推進中。

未来の研究者へのメッセージ

研究の道に進みたい人は、「なぜ」や「知りたい」という好奇心を大事にしてほしいですね。情報を収集し、仮説を立て、実験で検証する。最後に、その結果を踏まえて考察する。それを繰り返し、最初に自分が感じた「なぜ」や「知りたい」の謎解きをして、解けた時の喜びに感動してほしいと思います。

研究者は、ある種の変わり者です(笑)。変わり者なりに社会に触れて、その視点で答えを探し続けることで社会への貢献ができるのではと思っています。

久松さんって、こんな人

生産者、市場関係者、花きに関わる各種協会と、とにかく花き業界に顔が広く、様々な人脈を持っています。人と人との調整が上手なのは、気さくな雰囲気と物腰の柔らかさではないでしょうか。外に向けて常にアンテナを張り、研究に活かそうとする姿勢は見習わなければと思っています。信念のある研究者だと思います。
〈余談〉研究者らしからぬ、久松さんのスタイル。いつでもどこでも変わりません!

農研機構 野菜花き研究部門
花き生産流通研究領域 生産管理ユニット
上級研究員 牛尾 亜由子