単独での農作業時の事故発生状況(海外の研究から)
R5年12月 梅野 覚
以前、アメリカ合衆国における農作業事故状況についてのコラムがありました。今回も、アメリカ合衆国における農作業事故状況について、単独の農業従事者による事故状況という別の視点からご紹介したいと思います。以下は、筆者の和訳による論文のご紹介となりますので、正確な文意を確認されたい方は原文をご確認ください。
Journal of Agricultural Safety and Health 29(3)に、Etienne氏らによる論文「単独の農業従事者の負傷及び死亡事故の概要」が掲載されました。その内容の一部を以下に抜粋します。
- 2016年から2021年までに記録された約1,000件の農作業事故のうち、単独作業による負傷・死亡事故は368件であり、そのうちの274件(74%)が死亡事故であった。このうち、年齢が判明した被害者の50%は57歳以上であった。また、単独作業で最も多い事故は乗用トラクタに関連する事故(167件、45%)であり、その原因として横転またはひかれが多数を占めた。
- 多くの農業従事者が単独で危険な作業を行っていることから、農業従事者に対する農業に関する安全衛生教育をより重視する必要がある。また、単独作業を行う農業従事者を守るための、根拠に基づいた新しい安全衛生に関する教育方法を構築する必要がある。
- 単独作業を行う農業従事者は、緊急連絡先の人に連絡可能な携帯電話や無線機器を農業機械・施設に設置、または自身で所持するべきである。
- 単独作業を行う農業従事者に重大な事故が発生した場合に、緊急連絡先の人に警告を発する機能を有する新たな監視機器を検討するべきであり、実証時にはリスクの高い状態での作業時に試験する必要がある。
- リスクの高い単独作業を行う場合には、定期的にその農業従事者の場所や状況を確認できるようなマニュアルを作成し、実施するべきである。
- 監視者、緊急連絡先への連絡方法、現場での交代要員に関する連邦や州の労働安全衛生の規制は、法的に適用されるか否かにかかわらず、現場にて遵守されるべきである。
筆者が執筆している時点では、日本では個人経営体は88.9万経営体(農業経営体に占める割合は約96%)、基幹的農業従事者(個人経営体の中で普段から主な仕事として自営農業に従事している者)は116.4万人と報告されています(農林水産基本データ参照 )。単純に計算すると、1個人経営体当たりの基幹的農業従事者は約1.3人となります。そのため、日本でも単独での農作業は多いと推察され、上記文献の内容及び指摘は日本でも参考になると思います。
まずは、皆様のうち単独で農作業を行っている方がいらっしゃいましたら、連絡可能な携帯電話または無線機器を所持して、事前にご家族や友人等といつでも連絡が取りあえるようにし、行動予定を伝えた上で安全に作業を実施していただければ幸いです。