トラクタは坂道に駐車してよい?
R5年2月 積 栄
いきなりですが、もしタイトルのように質問されたとしたら、皆さんはどうお答えでしょうか。「よいも悪いも、そういうところに駐車しなければならないことも当然あるだろう」と思われる方も多いと思います。
そうなのですが、近年、当機構で連携する道県にご協力いただき収集している事故報告で、ほ場進入路等の傾斜があるところに駐車していたトラクタが突然下がりはじめ、土落とし等で後ろにいた人がひかれてしまった―といった事例が多く見られ、問題視しています。
もし傾斜のあるところには停めないようにすれば、当たり前ですがこういった事故はおきません。そこで取扱説明書を見てみると、やはりまず、「できるだけ平らなところに駐車してください」といった内容が記されています。ただし、諸事情で坂道に停めざるを得ない場合も、実際にはあるわけです。そこで取扱説明書ではこういったことも書いています。「止むを得ず傾斜のあるところに駐車する場合は、しっかり駐車ブレーキをかけた上で、輪留めをかけてください」
例えばトラクタの駐車ブレーキ性能を見ると、安全性検査での基準は1/5勾配以上、つまり約12度以上の傾斜で安定して停まること、となっています。逆に言えば、基準上保証されるのは12度まで、ということです。一方、ほ場進入路の勾配を見ると、現在は12度以下という推奨値はありますが、古いほ場等では、これより勾配が大きいところもまだまだ多く見られます。加えて、多くのトラクタの駐車ブレーキは、フットブレーキを踏み込んで固定する方式です。ご高齢の方だと、十分踏み込むのが難しい場合もあるかもしれません。さらに、点検整備が不十分で、元々のブレーキ性能が得られない状態の機械も、実際には多くありそうです。
こう考えると、例えばほ場進入路に停めようとした場合、駐車ブレーキだけでは心もとない・・・ということがわかります。やはり取扱説明書にあるように、「輪留めも不可欠」なのです。
なお、坂道に停める際は「変速レバーを低速に入れて車輪をロックする」という方もいます。これが有効な機械もありますが、近年のトラクタ、特にノークラッチで変速できるものは、エンジンを止めると、変速レバーの位置に関係なくニュートラルに戻ってしまう構造だったりします。機械の構造は、機能の進化とともに日々変わります。以前の知識だけに頼らず、あらためて取扱説明書を確認すること、そして必要に応じてトラクタでも輪留めを準備することの重要性を、ぜひ知っておいていただきたいと思います。