農作業安全コラム

目の肥えたユーザー

R5年8月 志藤 博克

 農機をお使いの皆さんにお願いです。是非、「目の肥えたユーザー」になってください。

 皆さんが農機をお選びの際は、値段、性能、機能、使い勝手などが基準になっているかと思いますが、これに「安全性」も加えてくださいませんか?そしてもっと安全性が高くて、もちろん性能も価格も満足できる農機を声高に欲してくださいませんか?「安全とか言うと、不細工なカバーが付いてきて使いづらい上に値段が高くなるから、そんなものはなくして少しでも安くしてくれ」と思われるかも知れませんが、それでは農機はなかなか進化できないのです。

 機械を設計する手順を定める国際規格では、リスクアセスメントを行った上で、①危険源をできるだけ無くす、②なくせない危険源を人と隔離する、③どうしても危険源に近づかなければならない場合は、安全装置を設ける、④それでも残ったリスクについては、わかりやすい取扱説明書を準備し、機械には安全標識を貼付してユーザーに正しい使い方を励行していただく、と定められています。さらに、ユーザーからの安全に関する改善意見や事故事例を収集し、より安全な設計に反映させることになっています。ここで肝心なのは最後の「ユーザーからの改善意見」と事故事例です。これがないと設計者はどこをどう改善すればよいか見いだすことができません。特に問題はない、と誤解する可能性さえあります。

 皆さんは農機が故障した時、すぐに販売店に電話すると思いますが、農機の危険な部位や危険な動作に気付いたときはどうでしょうか?ましてや、その農機を使っているときにケガをしたら、販売店を通じてメーカーに教えていただいているでしょうか?「危ないところは気をつけて使えば良い」「ケガをしたのは自分の責任」と思ってはいませんか?

 私たちは農業機械の安全性検査を行っていますが、受検は義務ではないため、必要最低限の安全対策さえ施されていない農機がまだ市場に散見されます。それでも昔から比べればはるかに農機の安全性は高くなりましたが、他産業や海外の機械に比べるとまだまだ伸びしろがあります。他産業並み、海外並みの安全レベルに成長するためには、ユーザーからの「愛あるクレーム」が必要なのです。これがないと、いつまでたっても「不細工なカバー」の域を脱することができません。皆さんが欲すれば、メーカーは必ず一所懸命、安全で性能が良く、手頃な値段の農機を産み出してくれるはずです。

 

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