農作業安全コラム

デジタル空間と現実世界をつなぐデジタルツイン

R8年10月  向 霄涵

 デジタルツインは、「デジタル実験場」と考えることができます。現実の人や環境に対応するモデルをコンピュータ上に構築し、デジタル空間で事前に試行・評価する仕組みです。従来のシミュレーションと異なり、センサーを通じて現実空間の変化を継続的に反映しながら分析を行い、その結果を現実の判断や作業に活用できるため、デジタル空間と現実空間が双方向につながっていることが大きな特徴です(※1)。

 この仕組みにより、デジタルツインは過去の再現だけでなく、将来の予測にも活用できます。例えば、衛星やセンサーで取得した作物生育データを用いて、デジタル空間上で異なる管理方法を比較することで、場所ごとに最適な施肥や栽培管理を行うことができます(※2)。また、農業機械やロボットの安全性評価への応用も進んでいます。私たちは、人体有限要素モデルと運搬ロボットモデルを用いて、実験が困難な挟まれ事故をデジタル空間上でシミュレーションし(図1)、低速条件でも骨盤骨折リスクが40%を超えることを確認しました。今後は、AIと組み合わせることで、人体傷害リスクのリアルタイム評価や安全装置の高度化への活用が期待されています(※3)。

 デジタル空間上のモデルには計算誤差が含まれるため、危険性を過小評価あるいは過大評価する可能性があります。特に人の健康や安全に関わる分野では、信頼性の高い予測を実現することが重要な課題となります。しかし、人体有限要素解析は計算コストが極めて高く、多様な条件を網羅的に評価することは困難です。そこで私たちは、少ないシミュレーション回数で傷害境界を効率的に探索する研究に取り組んでいます。傷害境界を把握することで、「どの条件で傷害が発生し、どの条件で発生しないのか」を定量的に示すことができます。さらに、その過程で蓄積されるデータは、将来の傷害予測モデルやデジタルツインの高度化を支える基盤として活用できます。

図1 デジタル空間における挟まれ事故のシミュレーション例

図1 デジタル空間における挟まれ事故のシミュレーション例

※1:Jones D., Snider C., et al. (2020). Characterising the Digital Twin: A systematic literature review. CIRP journal of manufacturing science and technology 29: 36-52.
※2:野村淳一ほか「デジタルツイン活用事例集: 製品・都市開発からサービスまで 」 エヌ・ティー・エス出版,2024.
※3:Xiang, X., Kikuchi, Y., Tanaka, M., Nishikawa, J., & Kobayashi, Y. (2026). Safety Analysis of Small Agricultural Mobile Robots: A Crushing Simulation Based on a Virtual Human Model. 農業環境工学関連学会2026年合同大会.

 

キーワード:事故/研究
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