情報社会と認知バイアス
R8年4月 上條 元徳
昨今、私たちはさまざまな媒体から情報を得られるようになりました。こうした環境は便利である一方、情報の受け取り方には「バイアス」が生じる危険性があります。
今回は、情報社会とバイアスの関係についてご紹介します。
そもそもバイアスとは、公平性を欠いた評価傾向であり、心理学では認知の歪みとして説明されます。安全行動の分野では、人は事故リスクに対して「楽観的バイアス」を持ちやすいとされています。
既往の研究では、建設作業員に対し、労働災害が「自分」と「同年代の作業員」に生じる可能性を評価させたところ、自分の被災可能性をより低く見積もる傾向が見られました。しかし一方で、この認識があっても回答者の安全行動が低下するわけではないことも示されています。(※1)
このような傾向は労働災害に限りません。交通事故リスクの認識の偏り(※2)や、SNS上の対人トラブルに対する安全行動(※3)など、さまざまな分野で、安全意識を持ちながらも認知的バイアスが見られることが報告されています。
こうした楽観的バイアスの要因として、参考文献(※4)(※2)は、事故やトラブルに関する情報を多く持つほど被災者と自分の違いを見出しやすくなる点を指摘しています。その結果、「自分の環境には問題がない」「同じ失敗はしない」と判断する傾向が生じるとされています。
この傾向は、農作業安全においても当てはまります。
農林水産省の公表によると、令和6年の農作業事故死亡者数は前年に比べて51人増加しました。また、夏季にはニュースやラジオ等で熱中症への注意喚起が頻繁に行われていたにもかかわらず、熱中症による死亡者数も前年より22人増加しています。これまでのコラムで触れてきたように、農作業事故は人的・環境・機械といった複数の要因が重なることで起こります。
バイアスの生じやすい現代では、情報を自分の状況に引き寄せて考えることが重要です。多くの事故事例に触れることは、自身の環境の危険を想像する手がかりとなります。情報とバイアスの関係を理解し、適切に活用することが事故予防につながります。




