農研機構

特集1 サツマイモ基腐病を防ごう

農研機構のサツマイモ基腐病対策

農研機構がお薦めするサツマイモ基腐病対策の一部をご紹介します。

対策技術
1

病原菌を最短1日で検出・同定
リアルタイムPCR迅速診断

国内の広い地域に基腐病の病原菌の類縁種であるサツマイモ乾腐病(かんぷびょう)(以下、乾腐病)の病原菌も分布しています。基腐病は既存の乾腐病より深刻な被害を産地にもたらすため、疑わしい症状が発見された場合には、乾腐病と区別して速やかに適切な対応を取る必要があります。しかし、基腐病と乾腐病を症状で区別することは難しく、原因菌を分離して診断する場合には2週間ほどかかっていました。

そこで農研機構では、両種をそれぞれ特異的に検出できるリアルタイムPCRによって、最短約1日で基腐病菌と乾腐病菌を高精度に検出・同定する技術を開発しました。

このリアルタイムPCRにより検出・同定する技術は、すでにいくつかの県で、初発生の確認に利用されています。

病原菌

基腐病

糸状菌
Diaporthe destruens

乾腐病

糸状菌
Diaporthe batatas

対策技術
2

農薬を使用せず土壌病害虫を防除
苗床の土壌還元消毒

土壌還元消毒法では、米ぬかなど分解しやすい有機物を土壌にすき込んでから、水をたくさんまいてビニールで被覆することで、土壌中の多種多様な微生物がその有機物を餌に急激に増殖して酸素を消費した結果、土の中は酸欠状態となり、基腐病菌も含めて酸素を必要とする微生物が死滅します。低コストで、環境にもやさしい技術です。

※スクロールで全体をご覧いただけます

苗床に米ぬかを散布
トラクターで土壌に混和
水をまく
被覆

米ぬかを土壌に混和してぬかるむまで水をまいた後、地表面をフィルムで被覆しておよそ30°C以上で湿潤状態となるように3週間から1か月維持すると、基腐病の発生を抑制できます。

対策技術
3

防除対策の展開
防除マニュアルと解説動画

生研支援センター「イノベーション創出強化研究推進事業(R1~3)」において、発生県とともに開発した技術を、技術者向けにマニュアルとして制作し、生産者向けには解説動画として、2021年からYouTube(NAROchannel)で配信しています。サツマイモの栽培暦に沿った対策を6回に分けて、それぞれ詳しく解説しています。

技術者向け詳細な対策を掲載
サツマイモ生産者や
家庭菜園者向け

アニメーションで解説する場面もあり、わかりやすい動画です。

活動紹介

技術適用研究チーム活動紹介
種イモの蒸熱処理技術の最適化

九州沖縄農業研究センター
研究推進部 技術適用研究チーム
荒川 祐介 チーム長
ARAKAWA Yusuke

私たちのチームでは蒸熱処理技術の最適な条件を検討しています。基腐病の病原菌が苗床に持ち込まれるリスクのひとつが種イモです。現在は、種イモを消毒液の中に30分間浸して殺菌する消毒方法が普及していますが、この方法は大規模農業法人のようなたくさんの種イモを消毒しなければならない場合には適当ではありません。薬剤を購入する費用、作業者の確保が必要で、作業には手間もかかり、かなりの重労働です。しかも、廃液処理もあります。これらの問題を解決する技術のひとつが、大量の種イモを飽和水蒸気によって一気に機械で消毒する「蒸熱処理」です。この技術はすでに鹿児島県の一部で利用されていますが、まだ普及には至っていません。効率的にムラなく殺菌効果を高める技術、萌芽数を高める技術、まだまだ蒸熱処理技術には改善の余地があります。こういった技術を最適化することで、作業手順の標準化や機械導入のコストダウンで普及につながれば、基腐病の克服につながると思い、日々研究に取り組んでいます。

一度に、総量480キログラムの種イモが消毒できる。パレット積載なので、フォークリフトでの積み込み作業が可能。