生物系特定産業技術研究支援センター

(c017)湛水栽培法によるサトイモの優良種いも増殖および生産性向上

事業名 革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)
実施期間 平成28年~30年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
鹿児島大学、南九州大学、鹿児島県農業開発総合センター、鹿児島県大隅加工技術研究センター、宮崎県総合農業試験場
作成者 鹿児島県農業開発総合センター熊毛支場 池澤和広

1 研究の背景

サトイモ生産では優良な種いもを確保することが最も重要であるが、依然として、線虫被害等による品質、収量の低下が見られる。そこで、近年開発されたサトイモの湛水栽培法により優良種いも生産を目指す。

2 研究の概要

優良種いも生産を可能とする湛水栽培法の確立に向け、最適な湛水期間、施肥法、病害虫の防除等を明らかにし、実用技術を開発した。また、サトイモ栽培で最も多労である子いも分離作業の省力機械を開発した。さらに、ほとんど廃棄され活用されていない親いもの活用法も開発した。

3 研究期間中の主要な成果

  • サトイモ湛水栽培法の確立 : 生育期間中(6~8月の3か月間)、畝間に水をかけ流すだけで、線虫・乾腐病害、裂開症、芽つぶれ症等の障害いもが減少し、品質が向上するとともに、収量が20%向上する。
  • サトイモ子いも分離機の開発 : 親いもから子いも等を切り離す装置を開発し、作業台に親いも株をのせ油圧で押圧するだけで、親いもから子いも等が外れ、これまでの労力に比べ作業時間を80%削減できる。
  • サトイモ親いもの加工利用技術 : 親いもは、でん粉含量及びポリフェノール含量が高く、えぐみが少なく良食味で、ペーストとでん粉を組み合わせることで、小麦粉を使用せずにスナック菓子や煎餅が製造できる。

4 研究終了後の新たな研究成果

湛水栽培に適応する晩生品種「大吉」における肥効調節型肥料を用いた施肥管理技術を開発した。また、本品種の親いもを活用した里芋焼酎「新風」も開発され製品化された。

※成果情報ウエブサイト

5 公表した主な特許・品種・論文

  • 実用新案U2018-1575 里いも株の子いも分離機(出願人:鹿児島県)
  • 池澤和広他.サトイモにおける優良種いも生産のための新しい栽培-湛水畝立て栽培法-に関する研究.鹿児島農総セ研報.14.1-15(2020).
  • Yamanouchi, T. et al. Effects of Flooding Cultivation on the Composition and Quality of Taro (Colocasia esculenta cv. Daikichi).Journal of The Science of Food and Agriculture.1-9(2021).

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • サトイモにおける湛水栽培 : 面積15ha、生産量270t、販売額6,700万円(令和3)
  • 子いも分離機 : 販売台数16台、販売金額1,100万円
  • 親いも活用による開発商品 : さといもまんじゅう、さといもサラダ、さといもチップス、里芋焼酎等

(2) 実用化の達成要因

サトイモ栽培の中でも種いも生産に絞り対象を明確化し、採種事業を実施している鹿児島県経済連、地域普及組織、市町およびJAと一体となった取組ができた。また、子いも分離機も現地での実演を積極的に行った。

(3) 今後の開発・普及目標

湛水栽培は、関係機関と連携し全国の青果用も含め3~5年後には栽培面積18haが目標。子いも分離機は現在導入農家の周辺への自然増加を期待する。親いもの加工利用は里芋焼酎など大量活用に期待する。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

子いも分離機開発により企業での製造販売が始まり、親いも活用による新産業創出に貢献できた。今後、水田の高度利用化により、国産原料の安定供給化が図られ、国民の安心安全なサトイモ消費に貢献していく。