生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話41》珍しい八重咲きの誕生でリンドウの用途が拡大

2022年11月30日号
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リンドウと言えば、花びらの色が青紫色で一重咲きがほとんどであり、仏壇やお墓に供える仏花のイメージがありますが、岩手県農業研究センターや八幡平市花き研究開発センターがボリューム感のある八重咲きリンドウを開発したことで、ブライダルやお祝いの贈答用、ガーデニングなど新たな用途が開けてきました。将来的には海外での生産や輸出も検討されており、岩手県の花き産業への貢献が期待されています。

八重咲きの「いわて八重の輝きブルー」がデビュー

今年9月、これまで見たこともない新しいリンドウが岩手県でデビューしました。その名は「いわて八重の輝きブルー」(写真1)。岩手県農業研究センターなどが開発した、花びらが青色に輝き、重なって咲く八重咲きのリンドウ品種です。約100件の公募の中から名称が選ばれました。盛岡市内で名称発表会が開催され、華やかな船出を祝いました。


写真1 : 八重咲きの「いわて八重の輝きブルー」
(岩手県農業研究センター提供)

3種類の「あしろブーケ」も誕生

岩手県はリンドウの出荷量が全国の約6割を占める日本一の産地ですが、リンドウが利用される機会をさらに広げるために、新奇性に満ちた新たなリンドウの育成が悲願でした。その悲願を叶えるべく、リンドウの主要産地に所在する八幡平市花き研究開発センターなどは「八重咲き」と「赤色系」リンドウの育成を目的に6年前から品種改良に取り組んできました。これまで突然変異で生まれた八重咲きリンドウはありましたが、花の形や草姿が悪く、花びらに斑点があるなど、そのままでは品種としての利用が困難でした。

そこで、他のリンドウ系統との交配を繰り返し行い、見栄えのよい7品種の八重咲きリンドウをようやく生み出しました。その中から、八幡平市安代(あしろ)地区のリンドウ生産者たちが2021年秋、鉢植えの3品種(写真2~4)を初出荷しました。これらカラフルな八重咲きリンドウは花持ちがよく、贈答用や観賞用にも利用され、「あしろブーケ」として人気を博しています。「いわて八重の輝きブルー」もこうした研究の中で生まれたリンドウです。


写真2 :「あしろブーケ マリン」
(八幡平市花き研究開発センター提供)


写真3 :「あしろブーケ ロゼ」
(八幡平市花き研究開発センター提供)


写真4 :「あしろブーケ アクア」
(八幡平市花き研究開発センター提供)

DNAマーカーやバイテク育種技術も活用

八重咲きリンドウが効率よく生まれた背景には、DNAマーカーを利用した育種技術が挙げられます。これは、交配で大量に育成した苗の中から、八重咲きにかかわる遺伝子配列(識別DNAマーカー)を目印にして、目的の苗を効率よく選び出す方法です(写真5)。さらに、品種改良の速度を上げるため、コルヒチン(イヌサフランなどの種子に含まれ、種なしスイカなどの品種改良に使われる生理活性物質)などを使って染色体を倍加させる技術も育成に役に立ちました。


写真5 : 赤で囲んだ遺伝子型の苗を選ぶことで効率的に選抜が可能
(岩手生物工学研究センター提供)

将来は鮮やかな赤いリンドウも誕生か

八重咲きとともに進められてきたのが赤色系統の作出です。リンドウの花色はもともと青紫色です。これまで自然界で生じる突然変異を利用して、桃色や白っぽい色の花の品種はありましたが、日本国内では赤色系統はありませんでした。八幡平市花き研究開発センターなどはニュージーランドから取り寄せた赤色の品種と日本のリンドウを繰り返し交配させ、赤色系統(写真6)を作り出しました。

この赤色系統の育種でも、岩手生物工学研究センターなどが、より鮮やかな赤色の発色に関わる遺伝子の同定に世界で初めて成功し、それに基づき開発した識別マーカーを利用する育種効率化技術が活用されました。この鮮赤色系統のリンドウはまだ市場に出せる段階にはなっていませんが、品種開発を継続しています。

研究開発の全体総括者である岩手生物工学研究センター園芸資源研究部の西原昌宏研究部長は「リンドウはまだまだ開発余地の大きい花です。今後、さらなる需要拡大を目指して、新形質のリンドウを開発していきたい。」と熱く語っています。


写真6 : 開発中の赤いリンドウ
(八幡平市花き研究開発センター提供)

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ)

事業期間

平成27年度~令和元年度

課題名

新規育種技術を活用した需要拡大のためのリンドウ品種の開発

研究実施機関

公益財団法人岩手生物工学研究センター(代表機関)、岩手大学農学部、八幡平市花き研究開発センター、岩手県農業研究センター


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