生物系特定産業技術研究支援センター
《こぼれ話74》 モモの収穫適期を音響振動装置で予測
2026年8月18日号
国産果実は国内外の市場で高い需要があるものの、高齢化や後継者不足などにより生産量は減少傾向にあります。果樹栽培では、高度な技術や経験が必要な管理作業が多く、機械化による省力化が難しいことが、規模拡大を妨げる要因の一つとなっています。
果樹の中でもモモ(特に白桃系品種)の収穫作業では、収穫期まで果実袋を掛けて栽培するため、収穫適期を見極める際には、果実袋をめくったり小さく破ったりして果皮の微妙な色合いやわずかな果実の軟化を確認する必要があり、多くの労力と熟練技術を要します。収穫適期を逃すと過熟による日持ち性の低下や輸送時の果実の傷みが発生しやすくなるため、品質のよい果実を出荷するには収穫適期を的確に見極めることが重要です。このため、果実を傷めることなく、熟練者でなくても収穫適期を判断できる技術が求められています。
そこで岡山県農林水産総合センターを代表機関とする研究グループは、①改良した音響振動装置(果実硬度共鳴測定器=用語*1)を用いて、果実袋の上から果実硬度の指標となる共鳴周波数を測定し、②樹上の果実の位置情報や共鳴周波数などのデータをクラウド上で管理して、③それぞれの果実の硬度と収穫予測日(収穫までの残日数)をスマートグラス上にAR(拡張現実)表示(用語*2)する、という一連のシステムを開発しました。
このシステムにより、未熟練者でも収穫適期を容易に判断できるようになり、収穫作業の省力化や正品(適熟果)率の向上が期待できます。
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| 音響振動装置(左)を用いた測定のイメージ(右)。 スマートグラスには、果実の硬度と収穫適期までの残日数が表示されます =図、写真はいずれも岡山県農林水産総合センター提供 |
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果実の硬度を測る音響振動装置を改良
果実に微弱な音響振動を与えることで果実の硬度を測る音響振動装置(果実硬度共鳴測定器 携帯型)「ゆびけん」は、広島大学などの研究者が開発し、2019年12月に発売されています。
「ゆびけん」は、指輪型センサーで樹上の果実に袋の上から触れることで果実硬度を測定し、その結果を腕に固定したスマートフォン型ディスプレーに表示する機能を持っています。しかし、栽培中の果実を測定する際には、脚立上で作業しながら何度もディスプレーを確認する必要があり、視認性に課題がありました。そこで研究グループは、音響振動装置の測定結果を表示する端末をスマートグラスに変更するとともに、データ送信の無線化を図るなどの改良を行いました。
さらに、樹上の果実の位置情報や共鳴周波数の測定データをクラウド上で管理することで、収穫時に事前に測定した果実を特定するとともに、成熟に伴う共鳴周波数の推移から構築したモデルに基づいて収穫予測日(収穫までの残日数)を推定し、その結果をスマートグラス上に果実と重ねてAR表示するシステムを開発しました。

機器装着のイメージ
事前に硬度を測定しデータベース化、スマートグラスに収穫適期を表示
実際の利用にあたっては、平年の収穫期の10日~14日前を目安に、音響振動装置を用いて樹上の果実の硬度を一つひとつ測定します。併せて、自己位置推定機能(用語*3)を搭載したスマートグラスを着用して、樹上の果実の位置情報も同時に記録し、測定データとともにクラウド上に保存してデータベース化します。データベースと連動したスマートグラスを通して樹上の果実を見ると、各果実の硬度指標である共鳴周波数と収穫までの残日数がAR表示されます。このため、一度測定した樹上の果実については、測定時とは異なる作業者であっても果実の状態を容易に把握することができます。
本システムにより収穫作業の省力化(収穫作業時間25%削減)や、正品率の15%向上(出荷ロス削減)が可能であることを明らかにしています。
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| 樹上の果実硬度を測定すると(左)、作業者のスマートグラス画面上に硬度を示す共鳴周波数「1281」と収穫適期までの日数「6」がAR表示されます(右) | |
スマート栽培管理支援システムを市販化
収穫適期を予測するためには、品種ごとに果実硬度の時間の経過に伴い変化するデータを蓄積し、その推移をモデル化する必要があります。岡山県では主要5品種について、3年をかけ1万回を超える硬度測定と830果の品質調査(破壊調査)を経てスマート栽培管理支援システムを実用化しました。
樹上の果実の収穫適期をスマートグラス上にAR表示させるスマート栽培管理支援システム(商品名:果実硬度共鳴測定器「果実とりごろスマートシステム」)は、2025年6月に約80万円で市販化されました。現在のシステムは、岡山県のモモ(白桃系品種)の主要5品種、「白鳳」、「清水白桃」、「おかやま夢白桃」、「白皇」及び「白露」に対応しています。
岡山県農林水産総合センターは、2025年7月に「果実とりごろスマートシステム」の実演会を開きました。参加者からは「スマートグラスを掛けるとモモの収穫までの日数が果実に重なって表示され、一目で分かる」と期待する声が聞かれました。現在、県の農業普及指導センターとともに、産地で実証圃場(ほじょう)を設置し、このシステムの普及を進める取り組みをしています。
岡山県農林水産総合センター普及連携部普及推進課の福田圭三課長は「このシステムは岡山県のモモの主要5品種に対応しているものです。他県ですぐ利用できるようなものではありません。しかし、収穫適期を予測する技術やAR技術は多くの作物の生産や収穫の場面で活用される可能性があるでしょう」と話しています。他県で利用するには、その地域で品種ごとのデータを入れて検証する必要があります。
収穫期の判断が難しいモモ栽培において、スマートグラスを使って収穫適期が分かれば、熟練者でないパート作業員も作業しやすくなります。作業の効率化が進めば、新規就農者の技術習得のハードルも下がり、栽培規模の拡大や産地の維持・発展につながるものと期待できます。
用語
*1 音響振動装置(果実硬度共鳴測定器) 果実に微弱な音響振動を与え、果実の硬度の変化に応じて共鳴を起こす周波数を確認する音響振動装置は、広島大学の櫻井直樹名誉教授によって開発されました(特許第6173819号)。果実の硬度と熟度・内部状態は密接な関連があるため、硬度から熟度を推定できます。「ゆびけん」は樹上で生育中の果実硬度を測定できるように小型・携帯型にしたもので、(有)生物振動研究所と(株)寿エンジニアリングが開発・製造しています。モモ以外にもブドウ、ナシ、カキ、メロンなどで果実硬度が測定できます。
*2 AR(拡張現実)表示 AR(Augmented Reality)は拡張現実と訳されます。スマートフォンのカメラやスマートグラスを通して見える現実の風景に、測定データの数字などを重ねて表示し、視覚的に情報を付加する技術です。
*3 自己位置推定機能 スマートグラスに搭載されている機能で、各種センサーを活用して視線方向や運動方向(前進・後進・左右)から自分の位置を推定します。どの果実を測定したかを記録し、作業者と果実の位置関係を把握するのに役立ちます。
事業名
戦略的スマート農業技術等の開発・改良
事業期間
2022年度~2024年度
課題名
果樹栽培の省力・高品質安定生産を可能にするスマート栽培管理支援システムの開発
研究実施機関
岡山県農林水産総合センター(代表機関)、岡山大学、広島大学、(株)寿エンジニアリング




