生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 継続審査結果

牛の難治性疾病に対する新規ワクチン戦略

研究代表者氏名及び所属

今内 覚(北海道大学大学院獣医学研究科)

継続審査結果概要

畜産業界に多大の被害をもたらしている牛白血病は、ワクチンによる予防が最も有効な解決法といわているが、いまだワクチン開発はなされていない。本研究では、2006年頃からマウスやヒト等で相次いで発見された免疫抑制レセプター/リガンド(PD-1/PD-L1)が牛白血病ウイルスの抗体産生を抑制し、ワクチン開発を妨げている1要因ではないかとの推論をもとに、牛におけるPD-1/PD-L1の免疫抑制機序を知るための研究を行った。

その結果、リンパ球の発現動態解析手法等を開発し、牛では初めてPD-1/PD-L1遺伝子を同定した。ヒト型PD-1/PD-L1のin vitro試験では、殺ウイルス作用を持つサイトカイン(IFNγ)の分泌能低下および細胞障害性T細胞(CTL)の機能が抑制され、一方、保有ウイルス量は上昇した。他方、PD-1/PD-L1の抗体投与では、これらのサイトカインやCTLの回復が見られ、逆に保有ウイルス量は低下した。また、PD-1/PD-L1抗体のin vivo試験では、ウイルス量の少ない未発症感染牛への単回投与によりウイルス増殖抑制効果およびIFNγ上昇効果が認められ、PD-1/PD-L1抗体が個体レベルで効果を示すことを明らかにした。更に、牛白血病罹患牛の腫瘍組織における発現解析により、腫瘍組織はPD-1/PD-L1発現細胞によって構成されていることを明らかにした。

以上のように、研究代表者らは本課題において多くの新知見を明らかにし、得られた成果は26件の論文として報告しており、当初の目標を達成していると評価できる。また、提案された継続計画では、早期に牛PD-1/PD-L1の抗体作製を実現させ、それを用いて種々の病状の牛白血病牛に対する臨床試験を行い、有効性を実証する予定であるが、上記の実績から十分に成果が期待できる。牛白血病ワクチン成功の手がかりとなる成果を生み出す可能性を十分感じさせる研究課題であり、継続に値すると判断される。