生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 終了時評価結果

MAMPs受容・信号伝達系強化による病害抵抗性付与技術の開発

研究代表者氏名及び所属

渋谷 直人(学校法人明治大学)

研究参画機関

学校法人明治大学
(独)農業生物資源研究所
国立大学法人東京大学

総合評価結果

  優れている

評価結果概要

 本研究は、植物が本来もっている広範な病原菌検出系であるMAMPs(微生物分子パターン)認識系とその下流のシグナル伝達系の強化・改変により、様々な病原菌に対して抵抗性を付与する新しい技術の開発とともに、安定して複数病害抵抗性を示すイネの開発を目的に実施された。 

その結果、分子育種的な側面から実験材料を作製し、それらを用いて生化学的な解析を行い、MAMPs受容体の発見に引き続き、受容のメカニズムの解明、受容体改変による抵抗性分子育種、更にはファイトアレキシンの生産遺伝子と転写制御機構を解明しており、秀でた学術的な成果を収めている。チーム全体で著名な学術誌に35報以上を公表しており、また、国際学術会議を含め口頭発表も100を上回り、招待講演も10にのぼる。このように、チームの学術的な業績は、世界的に著名であり、十分な成果があったものと判断できる。今後、進展が期待される植物の自然免疫の汎用性研究の基盤となり得る成果と評価できる。具体的には、OsCERK1を過剰発現させたイネ形質転換体において、いもち病菌に対する抵抗性が増強できたこと及び活性型OsWRKY53過剰発現イネ形質転換株で抵抗性関連遺伝子の発現が向上し、いもち病とともにごま葉枯病に対して抵抗性を示した。さらに、受容体型キナーゼXa3、Pid2の細胞内領域を連結させたキメラ受容体遺伝子によるイネ形質転換体が、いもち病のみならず、ごま葉枯病と紋枯病に抵抗性を示したことから、本研究の推進が実用化に向けた技術開発に資するものであると判断できる。ただし、OsCERK1の過剰発現によって、細菌成分による応答も亢進するのであれば、白葉枯病などの植物細菌病も対象としなかったことが残念である。さらに、いもち病菌の接種法に応じて、抵抗性増強の違いが認められたことに関する詳細な解析がなされなかったことも、実用化技術開発の観点からは不十分である。種子伝染性の病害に対する効果や栽培法の検討など解決すべき課題も少なくない。このように産業創出に至るには、未だ相当な時間が必要と考えられる。 

全体を俯瞰して、費用対効果は適切な水準と評価される。今後は学術的な基盤的成果を踏まえた実用水準の技術開発への取り組みを期待したい。