生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

植物人工染色体の創出と伝達制御に関する研究

研究代表者氏名及び所属

村田 稔 (岡山大学資源植物科学研究所)

総合評価結果

  やや不十分

評価結果概要

 人工染色体は、数多くの遺伝子を同時にクローン化し、その導入・発現を可能とするベクターとして用いるためのツールとして世界的にも大きな期待が寄せられている。本プロジェクトでは、多数の遺伝子を一斉にクローン化して目的植物に導入・発現させることが可能な人工染色体の構築・開発を最終目標として、トップダウン法*1およびボトムアップ法*2の異なるアプローチを試みている。
 シロイヌナズナをモデル植物とするトップダウン法では、ミニ環状人工染色体の作製に成功し、世代を通じた伝達にも成功しており、また人工染色体をより安定に保持する系統の作出に成功して安定保持機構の一端を見いだしており、評価できる。実用作物であるイネにおいても、ミニ環状人工染色体の構築およびその簡易作製法の開発に成功したことは評価できるが、後代に伝達されるか、長期間安定的に機能するかの最終確認には至っていない。また、現段階でこのミニ環状人工染色体に自由に遺伝子を挿入・機能させる手法が開発されておらず、未だその利用価値は見えていない。
一方、タバコをモデル植物とするボトムアップ法については、理論的な側面をサポートする動原体の解析が進められた点は一定の科学的価値を持つものと判断されるが、実際に人工染色体の構築には至っておらず、機能的な人工染色体を構築するために必要なヒントすら得られていないことから最重要目標の一つは達成されておらず、今後の本技術の利用可能性、ひいては生物系産業への寄与の可能性を示すことはできていない。
当初設定目標を達成するためにさまざまな試みを一生懸命に行った努力は認められるが、設定目標が高過ぎたことは否めない。最終的に、いずれの植物種においても人工染色体の構築に成功していないことについては目標が未達成と判断せざるを得ない。それでも特許出願や学術論文としての公表を積極的に行って情報発信に取り組まれたことは前向きに評価すべき重要な点であり、「研究の意義は認められる」と判断する。

 

 *1「トップダウン法」は天然の染色体の短小化により、染色体の維持機構に必要な領域をミニ染色体として残す方法。

 *2「ボトムアップ法」は、 DNA配列情報をもとに染色体の維持機構に必要な要素を組み合わせて細胞内に新規に人工染色体を作出する方法。