生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

大果果実の作出に向けたバラ科果樹枝変わり大果変異の機構解明

研究代表者氏名及び所属

白武 勝裕 (名古屋大学大学院生命農学研究科)

総合評価結果

  優れている

評価結果概要

(1) 全体評価

 本プロジェクトは、山形県で発見された枝変わり大果セイヨウナシを研究材料とし、大果原因遺伝子を同定して他のバラ科果樹の高品質果実の育種に活用するとともに、その過程でトランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、ホルモノーム等のいわゆるオーム解析手法を駆使し、バラ科果樹の果実肥大・成熟に伴う代謝等の特性解明、および施肥・収穫等の栽培管理等に関する知見の提供に資する統合オミックス*解析データの収集・解析手法を考案し、それらデータを公開することを主な目的とした研究である。
 解析が進むにつれて大果形質が遺伝子変異ではなく、倍数性周縁キメラであることが判明し、研究の方向転換も余儀なくされたが、これは科学的観点からは明確な新知見であり、実用面でも倍数性周縁キメラの人為的誘導による大果品種育成の可能性を示した点で評価できる。また、果実の発育や糖蓄積、成熟に重要な因子を特定してその機能解析を進展させており、当初設定の重要目標は達成されたと判断される。さらに、ゲノム情報解析データを有効に活用しつつ、統合オミックス解析手法の開発を進め、‘Fruit Omics Database’ および‘European Pear genome & EST Database’を構築して公開した点は、当初設定目標を上回る優れた成果であり、極めて高く評価できる。広く果実研究者の今後の研究に大いに活用されるものと思われる。

(2) 中課題別評価

中課題A:「大果変異セイヨウナシのゲノム解析」
(山形県農業総合研究センター園芸試験場 五十鈴川 寛司)

 本中課題では、セイヨウナシにおける枝変わり大果変異が特定遺伝子の変異であることを想定し、原因遺伝子の同定・単離を主目的として研究が進められた。交配後代系統の早期開花性が一時的に見られなくなる事態等もあって結論がなかなか出なかったが、最終年度になって、大果形質の原因はゲノム倍加が花芽分化直後の早期に起こる倍数性周縁キメラであることが明らかになり、原因解明という意味では当初設定目標の一部は達成されたと判断される。また、早期開花性遺伝子の有効活用により交配後代植物を短期間で獲得・育成・活用するための具体的な事例を示し、早期開花を誘導する栽培条件の改良やその系を利用した後代の果実形質検定についての事例の提示ができた点は価値ある成果と判断される。さらに、他の中課題への実験材料の適切な提供やゲノム情報の活用の点で大きな役割を果たしたことも評価できる。

中課題B:「大果変異セイヨウナシのトランスクリプトーム・プロテオーム解析」
(名古屋大学大学院生命農学研究科 白武 勝裕)

 本中課題では、バラ科果樹の特徴であるソルビトール合成・代謝の特性を解明しつつ、大果形質に関わるソース・シンク能をトランスクリプトーム解析やプロテオーム解析手法を駆使して明らかにすることを目的として解析が進められた。トランスクリプトーム解析では果実肥大、アクアポリン、各種物質のトランスポーター等に関与する遺伝子を抽出・検出することに成功し、また、プロテオーム解析で発酵やイオウ代謝に関わるタンパク質の検出などトランスクリプトームの補完をなすデータが得られた点で当初目標は概ね達成したものと判断される。一方、ソルビトール6リン酸脱水素酵素遺伝子の形質転換体によるミオイノシトール代謝の特性を解明した点で新しい知見を得ており、高く評価できる。さらに、中間評価を受けて、セイヨウナシの多くのゲノム情報を取得し、トランスクリプトーム解析、プロテオーム解析、中課題Cで実施しているメタボローム解析をつないで統合オミックス解析を可能にした。これらの成果は、オーム解析データを統合するための基盤となる優れた成果であり、極めて重要な成果を得たものと高く評価できる。

中課題C:「大果変異セイヨウナシのメタボローム解析」
((独)理化学研究所植物科学研究センター 及川 彰)

 本中課題では、研究代表者らが開発したメタボローム・ホルモノーム技術を駆使して、大果形質とともに変動する代謝物や植物ホルモンを探索しつつ、セイヨウナシの肥大・成熟に伴う代謝物・植物ホルモンの変動を網羅的に解析することを目標に研究が進められた。材料の調製方法、分析手法の改良等を行うことで、当初想定よりも早いスピードで解析が進み、セイヨウナシばかりでなく、リンゴ、ニホンナシ、オウトウ等にも解析範囲を広げ、バラ科果樹全体をカバーするようなメタボローム解析・ホルモノール解析データを取得することができた。セイヨウナシに特異的なアミノ酸代謝、ABA、CSの検出などの成果が得られた。さらに、統合オミックス解析手法の開発にも大きな成果を上げるとともに、バラ科果樹の発生・肥大・成熟の特徴を明らかにしてデータを代謝マップに投影することにより可視化に成功した。これらのデータを関係研究者に公開していることも含め、本中課題の成果は極めて高く評価できるとともに、生物系特定産業の利活用の観点でも大きな成果を上げたものと判断される。

 * オミックスとは、生物の体の中にある分子全体を網羅的に調べる学問。