生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 中間評価結果

魚類天然資源から効率的に優良経済形質を選抜育種する技術の開発

研究代表者氏名及び所属

荒木 和男 (独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所)

評価結果概要

ブリは日本の海面養殖魚として最も重要な地位を占めている。現状では大部分の種苗を天然の稚魚に頼っているが、人工種苗生産も広がり始めており、育種技術の開発が大きな課題となっているだけに本研究は極めて意義深い。デジタルPCRによる多型解析研究、一塩基多型(SNP)解析データを本種の選抜育種に用いること、表現型を制御する新しい遺伝子の機能の発見などは本研究の新規性であり、F2(雑種第二世代)で育種選抜が可能となることは革新的である。

各中課題は一方が基礎、他方が応用という側面を持っているが、一体的に進められており、連携は申し分ない。研究は順調に進んでおり、中間目標は全て達成したと評価できる。

その一方で、学会等も含めて研究発表の努力不足が感じられる。基礎研究としても価値が高いため、より完成度の高い論文をめざそうという気持ちは理解できるが、プロジェクトの性格からいって、現場に役立つような情報発信が必要であろう。

中課題別評価

中課題A「Digital PCR を用いた1塩基多型解析系の開発に関する研究」

(独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所 荒木 和男 )

ブリ90個体から13,939個のSNPを同定し、解析家系で使用できる2000個のSNPを確保すると伴に、EST(発現配列タグ)配列情報から寄生虫ハダムシの防除に関係するレクチンや免疫応答関連遺伝子の情報を得て、その情報をもとにデジタルPCRを用いた効率的な発現解析条件を決定した。また、421個のラディエーションハイブリッドパネルを作製し、ブリゲノムをカバーする93個のラディエーションハイブリッドパネルの同定に成功した。それらを使って連鎖地図と対応した基礎物理地図の作成に成功したことは意義深く、中間時の目標を達成できたと評価する。

 

中課題B「Digital PCR を用いたブリのSNP情報を利用した表現型の解析に関する研究」

(国立大学法人 東京海洋大学 坂本 崇)

ブリ精子から整列化BAC(大腸菌人工染色体)ライブラリーを作製し、BAC末端配列から開発したマイクロサテライトマーカーをマッピングして837マーカー座が配置された24連鎖群からなる詳細化ブリ連鎖地図を作成した。従来のブリ連鎖地図を一気に詳細化したことは、産業上重要魚種であるブリの育種に道を開くものであり、高く評価できる。ブリ性決定に係わる性決定遺伝子の解析には0.125cM(cM:センチモルガン、遺伝的距離の単位)まで迫った。また、ハダムシ抵抗性に関する遺伝子座が連鎖群8および20上にあることを明らかにした。さらに、QTL(量的形質遺伝子座)解析によりハダムシ抵抗性の遺伝子座の推定が進んだ。これまで寄生虫症に対する耐病性育種の例はなく、ハダムシ抵抗性遺伝子座についての成果は極めて意義深い。ハダムシ抵抗性を有するブリの育種は生産コストの低減に大いに貢献するので、一層の成果を期待する。