生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 中間評価結果

バイオマス増大にむけたイネ次世代育種法の開発と利用

研究代表者氏名及び所属

矢野 昌裕((独)農業生物資源研究所)

全体評価

本研究は、ゲノム情報を利用したゲノミックセレクションが世界的にも注目され、実際に適用されつつある中で、日本の最重要作物であるイネ育種におけるゲノミックセレクションの有効性を検証するとともに、ゲノミックセレクションに資する知見を集積することを目的としている。これまでに、日本の多収品種の遺伝構造解明に必要なSNP(1塩基多型)セットを作成するとともに、バイオマスに関連する候補SNPおよびハプロタイプブロックの推定、さらにゲノムシャッフリング基礎集団の交配および遺伝子型の評価を行った。また、66品種、50形質を調査し、超多収イネの理想表現型モデルを作出するとともにバイオマス関連形質のQTL(量的形質遺伝子座)を検出した。さらに、バイオマスに関連する主要QTLを明らかにするなど学術的水準が極めて高い成果を得た。また、研究代表者の指導が十分に発揮されて中課題間の連携が適切に図られ、研究は当初計画を上回って進捗しており、多くの成果を得ていると判断できる。得られた成果はいずれも学術的水準が高く、生物系特定産業の発展だけでなく、バイオマスを利用したエネルギー産業の発展にも大きく貢献するものと期待される。今後、研究の一層の充実を図ることにより、優れた成果が期待できる。

 

中課題別評価

中課題A「系譜ハプロタイプの推定と育種基盤の確立

      ((独)農業生物資源研究所 矢野昌裕)

イネの全バイオマス変異に対する日本の多収品種の遺伝構造を明らかにするSNPセットを作出し、世界および日本の品種が7群に分類されること、日本の多収品種が6群にまたがることを明らかにした。また、遺伝子型情報と表現型情報を組み合わせた連関解析からバイオマスには複数のゲノム領域が関与していること、「北陸193号」と「たちすがた」の自殖後代では既報の主働遺伝子の存在が予測された領域で遺伝子型と表現型間に連関があることなどを明らかにした。「たちすがた」/「北陸193号」の交雑F6集団の遺伝子型と表現型値を用いてゲノミックセレクションのモデル構築を行い、物理的位置がQTL解析で検出された領域と一致するSNPを見出すなど、ゲノミックセレクションの有効性を示す成果を得た。さらに、インド型アレル頻度の高い領域について集団構造と家系情報を考慮したゲノムワイド連関形質から選抜形質に関係するハプロタイプを推定する方法を開発し、イネいもち病真性抵抗性に適用できることを確認した。また、ゲノムシャッフリングの有効性についてのシミュレーションから、5~6回の循環交雑によりQTL検出力が向上することを明らかにした。このように、「次世代育種法の開発」に向けた多くの基礎的知見を得ており、科学的貢献と農林水産業への寄与だけでなく、バイオマス増産による新規エネルギー産業創出にも貢献するものと期待され、当初の計画を上回る進捗である。

 

中課題B「ゲノム選抜育種法の検証と多収品種開発

      ((独)農研機構 作物研究所 加藤浩)

 3ヵ年にわたる66品種の50形質の調査から、全重または籾重と有意に関連する育種形質の有無を明らかにして、超多収イネに関する表現型レベルでの理想型品種のモデルを予測し、超多収イネにかかわるほぼ網羅的な形質情報を集積したことは特筆すべき成果である。また、「たちすがた」/「北陸193号」の交雑F5集団についてSNP連鎖地図を作成し、全重に関して6個のQTLにより変異全体の62.8%が説明できること、これらのQTLを集積することで「北陸193号」の全重より11.8%高まることを見出したことも大きな成果である。このように、「次世代育種法の開発」に向けた多くの基礎的知見を得ており、その科学的水準と農林水産業等への寄与はきわめて大きい。研究は、最終目標に向けて当初の計画を上回るスピードで進捗している。

   

中課題C「バイオマス関連遺伝子の単離とその評価

     (名古屋大学生物機能開発研究センター 芦苅基行)

 収量性やバイオマス関連のQTLの検出、原因遺伝子の単離およびピラミディングによるQTLの集積を進めた。さらに、「日本晴」および「台中65号」の遺伝的背景に生育旺盛な野生イネOryza longistaminataの染色体断片を導入した部分置換系統群を作出して、バイオマスを向上させる染色体領域候補を見出すとともに、「日本晴」/「カサラス」の戻し交雑集団を用いた千粒重に関するQTL解析から、種子サイズおよびバイオマスを制御する主要QTLを検出し、ポジショナルクローニングに成功した。また、この遺伝子の過剰発現体は種子サイズが増大し抑制個体では矮化するなど、学術的水準の極めて高い成果を得た。この遺伝子の特許出願がなされ、論文投稿を準備していることは高く評価される。この遺伝子に関しては、種々の育種的利用法が期待される。なお、「バイオマス関連遺伝子領域の交配による集積」では、若干の遅れがみられたが、全体としては最終目標に向けて順調に進捗している。