生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 中間評価結果

トマトの単為結果の分子機構解明

研究代表者氏名及び所属

江面 浩(筑波大学大学院生命環境科学研究科)

評価結果概要

果実の単為結果性の研究は、作物生産の収量増大や省力化に直接関わる農学分野の重要な領域である。本研究は、トマトの単為結果に関わる遺伝子ネットワークの全容を解明するとともに、それから得られる遺伝子情報を活用した、遺伝子組換えによらない方法による変異体の利用と単為結果性の分子制御技術の開発を目指している。本研究は5年計画として実施され、期間前半の研究は着実に進んでいると評価される。研究計画や実施体制は、後半においても特に変更の必要性はないと判断されるが、研究を効率的に推進するためには、中課題間における研究成果や試料の適切な受け渡しを含め、研究戦略を明確にして取り組む必要がある。また、トマト果実が単為結果で成長する要因として、細胞分裂、細胞壁分解、糖の合成・分解における代謝等も視野に入れることも必要であろう。

なお、中間評価時までの成果発表は、特許出願を優先したことに伴って、特筆すべき原著論文の公表が見られない。研究期間の後半においては、研究の効率的な推進とともに、成果の公表を加速することが強く求められる。

 

中課題別評価

中課題A「単為結果の分子制御技術の開発」

(筑波大学大学院生命環境科学研究科 江面 浩)

既得および新規の単為結果変異体のラフマッピングが完了し、遺伝子組換えによる分子制御および組換え体の研究を推進する基盤が完成した結果、単為結果の原因遺伝子として2個の候補を単離した。また、単為結果性に関連して、雌蕊特異的発現を示す遺伝子を単離している。今後は、単離した候補遺伝子の発現を解析し、真の単為結果遺伝子の同定と単為結果制御機構の解明を期待する。これら遺伝子の同定と機能の確認は、単為結果性トマトを育種する母本となる可能性を示すことになり、農林水産業への寄与は大きい。本中課題としての研究体制は十分に整っており、研究の方向性については特に問題はないが、原著論文の発表は低いと言わざるを得ない。特許出願を優先したという事情があるとはいえ、投入された研究費とプロジェクトの大きさに見合った成果の発表を求めたい。研究期間後半には、国際的に高い評価雑誌への原著論文の発表が待たれる。

 

中課題B「単為結果遺伝子のマップベースクローニングと機能解析」

(カゴメ株式会社総合研究所 金原 淳司)

単為結果性を示すF2分離集団を用いたSNPタイピングアレイおよびQTLを行った。これによって、単為結果変異体として古くから知られている単為結果遺伝子pat2の絞り込みも予定通りに進むとともに、次世代シークエンサーによるリシーケンス等の解析が進んだ。この結果、複数の遺伝子座の存在の発見と主要遺伝子が第3染色体に座乗していることの発見は特筆すべきものである。既存の単為結果性の原因となる遺伝子のマーカー化と新たな育種母本の開発が期待される。今後は、新たに見いだした単為結果性遺伝子をもつ変異体について、生理的特性とそのメカニズムの解析を進め、特許取得をしていただきたい。また、pat2遺伝子の座乗する染色体について、他の研究グループと意見が一致していないことから、この遺伝子の詳細な研究と成果発表が待たれる。一方、中課題Aで解析された単為結果変異体を対象とした実用性の評価はよく解析されている。特許出願できる可能性があり、解析を加速し早急な出願を期待したい。なお、研究成果の論文発表は必ずしも追いついておらず、研究期間後半は、原著論文の発表等の情報発信を精力的に進める必要がある。

 

中課題C「オミックス解析による単為結果制御因子の探索」

((独)理化学研究所 環境資源科学研究センター 草野 都)

トマトの単為結果変異体を対象に、オミックス解析として、トランスクリプトーム解析、メタボローム解析、ホルモノーム解析を行い、光合成関連の遺伝子群の誘導、カロテノイド類、葉緑体膜脂質等の顕著な変化を明らかにした。また、本中課題の各種解析で得られたデータに基づき、また、既にインターネット上に公表された種々のデータを活用することによって、単為結果の制御に関わる遺伝子ネットワークを推定している。しかし、このような解析は評価できるが、その解析結果と単為結果のメカニズムをどのように関連を付けるのかを実証していくことが必要である。本プロジェクトの最終目標であるトマトの単為結果に関わる遺伝子ネットワークの全容解明を達成するためには、今後、本中課題で得られたオミックス解析の膨大なデータを他の中課題、特に中課題Aに受け渡す等連携の一層の強化によって、本プロジェクト全体の効率的な推進を図っていただきたい。なお、レビュー論文の執筆は特筆されるものであるが、原著論文の発表は1編にとどまっている。今後は、本中課題独自の研究成果とともに、他の中課題と連携しつつ、原著論文の発表に努めていくことが必要である。