生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 中間評価結果

フェアリーリング惹起物質の植物成長制御機構解明とその応用展開

研究代表者氏名及び所属

河岸 洋和(静岡大学グリーン科学技術研究所)

評価結果概要

本研究は、研究代表者らがコムラサキシメジ菌糸体培養液から単離、同定した、フェアリーリングという芝が大きな曲線を描いて周りに比較して色濃く繁茂する興味ある現象を惹起していると期待される活性物質(2-azahypoxanthine(AHX)あるいは2-aza-8-oxohypoxanthine(AOH))とその関連物質(imidazole-4-carboxamide(ICA))の生合成・代謝ならびに作用機構を分子レベル・個体レベルで解明し、それらの情報を利用して農業への応用可能な植物成長調整剤の創製を目指した、基礎研究と化合物の応用へ向けた研究という2つの分野を含む興味深い課題である。研究を遂行する科学的意義とともに、生物生産への応用展開は高いポテンシャルを持つものと評価できる。

当初の計画に沿って精力的に実施され、AHXならびに関連物質が植物に普遍的に存在し、植物の成長制御に関わっていることを世界に先駆けて発見した独創性とそのインパクトは十分に大きい。また、天然物有機化学の応用展開において基盤となる関連化合物の調製は概ね順調に進展しており、大量供給を可能にしている点も評価に値する。

一方、本研究は植物ホルモン研究の歴史の中で展開された多くの課題を内包していることから、項目毎にその進捗状況に大きな差があり、AHXならびに関連物質の植物における普遍的存在の確認とAHXの植物における生合成・代謝変換に関しては、高い評価を得られるレベルに近づきつつある。しかしながら、研究成果として不足している部分や得られたデータの解析が不十分なため、研究全体に活用されていない項目も散見され、全体的には成果を確実なものとして評価することができる段階までには至っていない。今後2年間という期間を考えると、すべての課題について、当初の目標を完全に達成できる見込みは期待薄であると言わざるを得ない。研究全般を俯瞰して、本プロジェクトの残された期間内に、所期の目的に適う成果の得られる課題を重点的に推進することが必要である。また、現中間評価時に原著論文としての発表が無い点は問題である。情報発信としては極めて不十分であると言わざるを得ない。現在投稿中、投稿準備中のものに関しては、できるだけ早期に受理されるよう、万全を期すことが求められる。

 

中課題別評価

中課題A「植物成長調節物質への分子レベル・個体レベルでのアプローチ」

(静岡大学グリーン科学技術研究所 河岸 洋和)

本研究課題の中核を形成するもので、学術性の高い分野から応用展開に至るまでの幅広い課題に取り組んでいるが、総花的に展開されているとの印象が強い。

AHXが植物ホルモンである可能性を念頭に様々な植物種におけるAHXならびにその生合成前駆体と予想される5-aminoimidazole-4-carboxamide(AICA)、代謝産物と予想されるAOHの内在について精査、検出し、これらの化合物が植物自身によっても生合成されていることに加え、内生の成長制御物質として機能している可能性を示したことや、AICA-AHX-AOHの変換を確認するなど、天然有機化学分野では相応の成果が認められている。また、AHX、AOHについて代謝産物と予想されるICAを用いた生理作用も積極的に調べるとともに、トランスクリプトームによる応答遺伝子のプロファイリングも進め、これらの化合物がストレス耐性の誘導にかかわる可能性を示すなど、応用展開の各種実験を含めて期待の持てる結果を見出している。しかしながら、予備的な段階にとどまっているものが多く、具体的な成果として集約されていないため、進捗状況を高く評価することは難しい。

先ず何よりも、成果公表につながるよう、これまでのデータを整理し、綿密な計画の下に、担当者間の討議を活発にして、客観的に高い評価を得られるために必要な実験を重点的に展開することが求められる。特に、プロテオーム解析については、推進すべき課題数の多さ、得られる情報の質と時間的制限を考えると、この課題に注力するのは避けることが望ましいと言わざるを得ない。

 

中課題B「植物成長調節物質への合成化学的アプローチ」

(静岡県立大学薬学部 菅 敏幸)

中課題Aの担当する課題遂行に必要な化合物を有機合成により調製し、提供することを目的として展開され、本研究推進の重要な土台の一部を構成している。

AHXの大量合成法を確立し、応用展開における供給の課題を克服した。また、AOHの大量合成にも目処が立ちつつある。生合成・代謝研究に必須な各種標識化合物も調製するとともに、植物への投与実験により得られた代謝候補物質の合成を達成してその同定に貢献している。各種リボチドの合成を達成するとともに、8位置換体の合成にも展望が開け、構造活性相関研究において必要とされる各種誘導体調製のルートも開発している。さらに、生合成酵素の追究、受容体候補の探索に必要なプローブの調製も達成しており、いずれも計画に沿って順調に進捗している。

今後の方針について、特に大きな変更は必要ないと考えられるが、特許化、高活性化という観点から新しい誘導体合成への取り組みも必要である。

なお、中課題Aの負担が大きくなっていることから、構造活性相関等、一部の生物検定については中課題Bで遂行することを検討する必要がある。