(静岡大学創造科学技術大学院 朴 龍沫)
評価結果概要
バクミドの開発研究に関しては、プロテアーゼ欠損、キチナーゼ欠損などによるバクミドの改良や、分子シャペロンの共発現など、カイコを宿主とするタンパク合成系の改良が順調に進んでいる。本研究が成功裏に完成すれば、人為的な制御が可能な昆虫であるカイコを用いたタンパク質の軽便な大量生産システムの開発に繋がり、生物系特定産業への寄与は大きい。糖鎖修飾を受けたタンパク質の大量発現に関する研究では、免疫系細胞表面受容体や膜タンパク質の構造と機能についての解析など、科学的価値が認められ、かつ生物系特定産業への寄与も期待される研究が推進されつつある。とりわけ、膜タンパク質の大量発現におけるバクミド発現系の有用性を示したことの意義は大きい。N型糖鎖の構造解析が著しく進展した点も評価に値する。
研究は概ね順調に進捗していると考えられ、残り1年間の研究を推進するに当たって障害となる材料は見当たらない。今後、一層精力的に研究を推進することにより、優れた成果が期待できる研究である。
(2)中課題別評価
中課題A「カイコをタンパク質生産工場とするバクミドの開発」
(静岡大学創造科学技術大学院 朴 龍沫)
BmNPVバクミドシステムの利便性と機能性を高めるために、発現タンパク質の断片化を防止するためのシステインプロテアーゼとキチナーゼを欠損させたバクミド、発現量の向上を目指したプロモーター改変バクミドの作出、宿主の拡張を指向したハイブリッドバクミドの設計・作出や、タンパク質の発現効率を向上させるためのシャペロンの検索、発現タンパク質の分泌効率を向上させるためのシグナル配列の検索などを行い、当初の目標は達成されている。
当初計画に盛り込まれていなかった研究にも意欲的に取り組んで、成果を挙げたことは評価できる。バクミドの有用性をアピールするためには、論文・学会発表以外のメディアを通じての広報活動をより充実することが必要である。
中課題B「免疫系細胞表面受容体の組換えタンパク質とウイルスの作製」
(九州大学生体防御医学研究所 前仲 勝実)
本中課題では、免疫系レセプタータンパク質を題材に、バクミド発現系の有用性を示しており、学術的にも高い成果を挙げている。特に、分担者が実施したN型糖鎖のプロファイリングデータにより、バクミド発現システムで生産された糖タンパク質の構造が明らかになったことの意義は大きく、今後の研究を進展するうえでの重要な指針となっている。麻疹ウイルスHタンパク質のX線結晶構造解析の結果も科学的価値は大きい。膜タンパク質の発現も順調に進展しており、来年度に大きな成果として結実することを期待している。