生物系特定産業技術研究支援センター

(26069C)蒸熱処理は化学農薬無しで徹底消毒!クリーンなイチゴ苗から始まる防除体系を構築

事業名 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
実施期間 平成26年~28年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
農研機構九州沖縄農業研究センター、福岡県農林業総合試験場、佐賀県農業試験研究センター、熊本県農業研究 センター、(株)FTH、福岡県八女普及指導センター、エモテント・アグリ(株) 、三好アグリテック(株)
作成者 農研機構九州沖縄農業研究センター 高山智光

1 研究の背景

冬季の施設イチゴ栽培では、外部からの病害虫の侵入は少なく、病害虫の主要な発生要因は汚染苗による持ち込みなので、夏期の育苗中にしっかり防除することが重要である。しかし最近では農薬の効きにくい病害虫が増えて問題になっており、化学合成農薬に頼らない防除法が求められている。

2 研究の概要

主要な病害虫よりもイチゴの苗は耐熱性が高いことを見いだし、この差を利用して、苗に大きな障害を与えずに病害虫だけを死滅させる蒸熱処理防除装置と防除条件を開発・解明した。さらに蒸熱処理前後の防除体系を開発した。

3 研究期間中の主要な成果

  • 既存のプレハブ冷蔵庫に導入可能な小型ポータブル式蒸熱処理防除装置を開発した。小型のため安価であるが、処理株数は従来大型機の約1/3程度の約1000株である。処理精度は同等である。
  • 定植前に苗を蒸熱処理することで、ハダニ、うどんこ病等を一度に防除し、定植後の天敵などによる防除を安定化できる。苗への悪影響(葉焼け症状)は収量に影響を与えない程度であり、許容範囲内であった。

4 研究終了後の新たな研究成果

九州以外での展開のために、地域戦略プロにて、イチゴの輸出と絡めたIPMの開発に貢献した。
「生果実(いちご)の輸出用防除体系マニュアル」の中で、静岡での蒸熱処理防除技術を開発、マニュアル化した。
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/pamphlet/tech-pamph/131552.html

5 公表した主な特許・品種・論文

該当なし

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 小型ポータブル式蒸熱処理装置
    販売台数:16台(現在、九州の他、埼玉で2台、静岡で2台、岐阜、沖縄にも1台ずつ導入)
  • イチゴ苗蒸熱処理防除マニュアル2017
    配布・ダウンロード数:1000部以上

(2) 実用化の達成要因

本研究では、従来、収穫物の殺虫に用いられてきた蒸熱処理を生長中の苗の防除へ応用した。蒸熱処理そのものは実績のある技術であり、イチゴ苗と病害虫の耐熱性についても先行研究の蓄積があったため、実用化が容易であった。

(3) 今後の開発・普及目標

新たな研究の予定なし

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

イチゴは果実をそのまま生食するため、減農薬による安全安心へのニーズは非常に高い。蒸熱処理による化学合成農薬の削減は、消費者にとっては安全安心なイチゴが安定して供給されることになり、農業生産現場では高付加価値イチゴの生産、低環境負荷な持続的農業の実現などの生産者側のメリットにもつながる。さらには、イチゴの海外輸出について、相手国での残留農薬基準値超過問題も、蒸熱処理防除によって化学薬剤への依存を減少させることで、輸出に対応した防除体系策定に貢献している。