生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話69》魚類の機能性腸内細菌群を利用した革新的養殖技術

2026年2月4日号

持続的な食料確保の有用な手段として、世界的に養殖漁業が注目されています。これまで、養殖魚の餌となる魚粉の主原料にはイワシ類が使われてきましたが、イワシ類の漁獲量の減少などから、大豆やトウモロコシを主原料とする植物性飼料が開発されてきました。ただ、多くの海水魚は肉食であることから、植物性飼料では成長不良になります。また近年の海水温上昇もあって感染症も増加しています。

ホロバイオ株式会社を代表機関とする研究グループは、生研支援センターのスタートアップ総合支援プログラムにおいて、魚類の腸内細菌叢(腸内フローラ)=用語*1=を改善することで植物繊維の消化・吸収を促進し、養殖魚の成長性を高めることに成功しました。ブリやマダイ、クロマグロ、サンマなど多種多様な魚類の腸管から多様な機能を持つ2,000種以上の「機能性腸内細菌株」を分離、養殖する魚種に合わせてブレンドした「菌体カクテル」(写真1)を仔魚・稚魚期に投与することで魚類の腸内細菌叢を最適化・機能強化し、健康で大きな魚を生産する技術を開発しました。


写真1:菌体カクテルのサンプル
=写真、図はいずれもホロバイオ社提供

その技術を活用し、ホロバイオ社は福島県いわき市でサンマの陸上養殖にも取り組んでいます。

新規生物育種技術を活用し、健康で大きな魚を育成

ホロバイオ社は、様々な天然魚と養殖魚の腸内細菌叢を比較解析し、陸上養殖で育った魚の腸内細菌叢は貧弱で、効果的に栄養素を摂取できていないことを突き止めました。この課題に対し、多様な魚類の腸管内から取得した機能性腸内細菌株を投与することで腸内細菌叢そのものを改変し、最適化・機能化を図る「新規生物育種技術」(特許出願:PCT/JP2023/1513)を開発しました(図1)。


図1:「新規生物育種技術」による完全養殖のサイクル

本技術では、ブリならブリ、マダイならマダイ、というように、魚種に合った菌を複数種配合した「菌体カクテル」を与えていきます。投与時には、菌体カクテルを摂取させたワムシ(飼料となる微小生物)を仔魚・稚魚に捕食させて魚体に取り込ませるなどの方法をとります。腸内における細菌ネットワークの形成を促し、腸内細菌叢の最適化・機能化を図ることにより、魚をより大きく、かつ健康に成長させることが可能となります。菌体カクテルを投与したカンパチの実証試験では、孵化(ふか)後60日齢稚魚の生残率が大幅に向上し、体長はおよそ1.3倍になることが確認できました。また、稚魚期に菌体カクテルを投与し沖出し=用語*2=したマダイは、投与していないマダイと比べ、6ヶ月で約15%の体重増を確認しています(図2)。


図2:機能性腸内細菌株を与えたマダイは
6ヶ月で15%増量しました

さらにホロバイオ社では、成魚期においても有用な機能性腸内細菌株を投与することで、成長性や耐病性の向上を実現する製品の開発に向けた研究を進めています。

福島県でサンマを陸上養殖、養殖魚のブランド化もめざす

また、ホロバイオ社は、国内各地の水族館や水産研究所、地域の漁業者と協力し、「新規生物育種技術」を活用した様々な魚種の陸上養殖にも取り組んでいます。耐病性の高い種苗を開発することで、これまで養殖ができなかった魚種の陸上養殖を可能にし、海洋資源の保全にも貢献しようとしています。

その取り組みの一環として、ホロバイオ社は、2025年9月に福島県いわき市に小名浜事業所を開設し、陸上養殖の実証試験をスタートしました。現在は近隣の水族館「アクアマリンふくしま」の専門家にアドバイスを受けながらサンマ養殖に取り組んでおり、2026年3月頃には出荷サイズに成長する見込みです(写真2)。今後は本事業所で地域の沿岸漁業で獲れなくなりつつある魚種や、地域固有の希少な魚種の養殖にも挑戦し、地域資源の新たな活用モデルの構築を進めていく予定です。


写真2:ホロバイオ社は小名浜事業所の屋内水槽で
サンマの陸上養殖に取り組んでいます

さらに、魚類の発達分化・成長に必須の脂肪酸である高度不飽和脂肪酸のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)=用語*3=などの魚体における含量解析、脂質の画像解析に加え、腸内細菌のメタゲノム解析やネットワーク解析=用語*4=を組み合わせることで、魚の「おいしさ」を多面的かつ定量的に解析、京都の料理人の協力も得て統合的に評価する試みを行っています。これらのデータをAI(人工知能)の機械学習で解析し腸内細菌叢と食味との関係性を明らかにすることで、機能性腸内細菌株を投与した養殖魚をブランド化し、付加価値向上と市場での認知拡大につなげていくことを目指しています。将来的には、この知見を菌体カクテルの高度化や養殖ブランド戦略にも生かしていく計画です。

研究代表者のホロバイオ株式会社・梅田眞郷代表取締役は、「近年の気候変動により海洋環境は大きく変化し、漁業だけでなく養殖業も深刻な影響を受けています。こうした状況の中、私たちの技術が現場の課題解決に少しでも貢献できないかと考えています」と話しています。

用語

*1 腸内細菌叢(腸内フローラ)   腸内に生息する微生物(細菌、酵母、ウイルスなど)の集団・生態系。ヒトでは約1000種類、100兆個以上にも及び、その様子がお花畑(フローラ)のように見えることから「腸内フローラ」とも呼ばれます。食事や生活習慣でバランスが変わり、免疫や健康に大きな影響を与える重要な存在です。善玉菌(ビフィズス菌、乳酸菌など)、悪玉菌(ウェルシュ菌など)、そしてどちらにも属さない日和見菌に分けられ、善玉菌が優勢な状態を保つことが健康の鍵となります。

*2 沖出し   陸上の育成施設や沿岸の穏やかな場所で育てた稚魚を、より広い海域(沖)のいけすなどに移して、本格的に大きく成長させること。

*3 エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)   どちらも高度不飽和脂肪酸で、EPAは血液サラサラ効果(血栓予防、中性脂肪低下)、DHAは脳や神経の健康(記憶力・集中力維持)に役立つとされ、ともに炎症抑制作用や動脈硬化予防効果が期待される機能性脂質です。

*4 メタゲノム解析やネットワーク解析   メタゲノム解析は環境中の微生物群全体のDNAを直接解析し、どのような微生物や遺伝子が存在するかを網羅的に調べる手法です。ネットワーク解析は、メタゲノムデータから得られた微生物間の相互作用や機能的なつながりをグラフ構造(ネットワーク)として可視化・分析する手法です。この二つを組み合わせることで、微生物コミュニティーの生態系における役割や機能などを深く理解できます。

事業名

スタートアップ総合支援プログラム(SBIR支援)

事業期間

2022年度~2023年度

課題名

魚類の機能性腸内細菌群を利用した革新的養殖技術の開発

研究実施機関

ホロバイオ株式会社(代表機関)、北海道大学、京都薬科大学


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