生物系特定産業技術研究支援センター

《こぼれ話70》拡大する「ナラ枯れ」被害 新時代の広葉樹林管理戦略

2026年3月10日号

紅葉の季節でもないのに緑の森の一部の木で葉がしおれ、茶色や赤茶色に枯れてしまう姿が見られます。落葉広葉樹のミズナラ、コナラ、クリ、常緑広葉樹のマテバシイ、スダジイなどの樹種が枯れてしまう「ナラ枯れ」という現象です(写真1)。「ナラ枯れ」は、カシノナガキクイムシ(略してカシナガ)がナラやシイ、カシの樹幹に孔(あな)を開けて穿入(せんにゅう)する際、病原菌(ナラ菌と呼ばれるカビの仲間)を樹木に持ち込み、この菌がはびこることで樹木の通水障害が起きて樹木を枯死させてしまう病害です。


写真1:ナラ枯れによって枯死したマテバシイの木
=写真、図はいずれも森林総研提供

1980年代後半に日本海側で発生して、2010年度に全国の被害量32.5万立方メートルとピークを迎えた後、いったん減少に向かいましたが、2020年度に再び増加に転じています。現在は、北海道など北方寒冷地や都市部の公園などにも被害拡大が進み、2024年度には44都道府県で被害が発生しています。ナラ枯れ防除は、これまで多くの研究者らによって対策マニュアルが作られてきましたが、最近の被害拡大に即した新たなマニュアルが求められています。

そこで、(国研)森林研究・整備機構 森林総合研究所(以下、森林総研)を代表機関とする研究グループは、ナラ枯れをもたらすカシノナガキクイムシの発生予測に関する研究や、ノズル型殺虫剤及び被害木を薪状に分割するなど被害木の管理によって駆除する方法の開発に取り組み、有効性などを実証しました。さらに研究グループは、「With/Post ナラ枯れ時代の広葉樹林管理戦略」として、現在および将来に向けたナラ枯れ対策の考え方をまとめ、市民への普及を図っています。
(https://www.ffpri.go.jp/pubs/chukiseika/documents/5th-chuukiseika31.pdf)

様々な場面に応じた、被害予測や防除法を研究・開発していますが、今回は都市部の公園や緑地など人の生活圏での対処法を中心に紹介します。

カシノナガキクイムシとは

カシノナガキクイムシは体長5 mm程度の小さな甲虫で、樹木の幹に穿入して(写真2)、年輪に沿って孔道を掘り進むことから、細い木より太い木を好みます。

写真2:カシノナガキクイムシの雌成虫と孔道断面 (左)、孔道の中の蛹(右)

もともと若く細めの木が多かった里山では、薪炭としての利用が途絶えて数十年が過ぎ、太い樹木が増えています。このことがカシナガの増殖、ナラ枯れ被害の増加を助長したようです。

樹幹に穿入したカシナガをノズル型殺虫剤で駆除

これまでは生きたナラ類の樹幹内に穿入したカシナガを直接駆除する方法がありませんでした。そこで森林総研と大日本除虫菊株式会社中央研究所が共同してノズル型殺虫剤「園芸用キンチョールE®」を開発しました。実証試験で「園芸用キンチョールE®」を成虫の穿入後間もない樹幹の孔に注入したところ(写真3)、樹種や穿入後の時間経過にかかわらず、殺虫剤注入孔におけるフラス(用語*1)排出量が顕著に減り、カシナガ駆除に有効であることが確認できました(図1)。カシナガ駆除への効果を解明したことで、「園芸用キンチョールE®」は、2024年2月に農薬としての適用拡大が承認され、カシナガ駆除に広く使用できるようになりました。


写真3:園芸用キンチョールE®の注入。
付属のノズルを使って、カシナガの穿入孔から薬液が流出するまで、2~3秒注入します


図1:コナラ立木のカシナガ穿入孔に「園芸用キンチョールE®」を注入した後のフラス排出のある孔数の推移

成虫初発日の予測モデルを開発し、地図化

ナラ枯れ対策を実施するためには、カシナガの成虫が羽化脱出するタイミング(初発日)を知ることが重要です。被害木のカシナガ駆除は成虫の脱出前に完了する必要があり、ノズル型殺虫剤による成虫の駆除は穿入後の早い時期に実施することが望ましいです。

研究グループは、関東各地に成虫捕殺用トラップを設置し、初発日のデータを収集、気象条件や土地利用条件などとの関係を解析して初発日予測モデルを開発し、地図化しました。その結果、気温が高く、降雪量の少ない地域ほど初発日が早くなることが分かりました。このモデルにより、調査地の95%で約18日、80%で約12日、60%で約8日以内の精度で初発日を予測できました。

被害丸太を薪状に分割して放置

また、研究グループは、樹木医やNPO(非営利組織)を通じ、公園や緑地など人の生活圏で発生するナラ枯れに対して市民ボランティアらが実行可能な防除技術として、被害丸太を分割して林床(森林の地表面)に放置する駆除法を開発しました。

被害に遭った枯死木の丸太を薪状に分割して林床に放置する「分割法」では、長さ30 cmに玉切り(用語*2)したコナラとマテバシイの枯死木丸太を薪状に2分割あるいは8分割して、冬季の林床に放置した後、分割した丸太からの成虫脱出数を調べました。その結果、成虫脱出数は、コナラでは8分割すると5 %以下、マテバシイでは2分割でも5 %以下に減少しました(図2、3)。

図2:コナラとマテバシイの被害丸太を薪状に分割して林床に放置した後のカシナガ成虫脱出数


図3:丸太の分割イメージ

伐倒丸太を短く玉切りして林床に放置する「短木丸太法」では、コナラの被害丸太を長さ15 cm、30 cm、100 cmに切断して、冬季の間、林床に放置した後に、成虫脱出数を調べたところ、丸太が短いほど成虫脱出数が少なくなることが分かりました(図4)。「短木丸太法」は、被害丸太の分割が困難な場合や分割するための労力がかけられない場合などに有効な駆除法となります。


図4:冬季の林床に放置された長さが異なるコナラ丸太からのカシナガ成虫脱出数

カシナガの発生が抑えられる理由は、被害丸太を薪状に分割、割材して材の含水率が低下するとナラ菌の繁殖が阻害され、幼虫の生存率が低下すること、また孔道を動き回る幼虫は移動中に材の外に落ち、いったん外に出た幼虫はアリなどに捕食され、元の孔道に戻れず死滅することなどのためと考えられています。

ナラ枯れへの理解を市民に広げる試み

都市部のナラ枯れ被害では、自治体による防除作業のほか、公園や緑地の管理に協力する市民ボランティアらと連携して対策を実施した事例があります。市民にナラ枯れと森林管理への理解を深めてもらうイベントも開かれてきました。研究メンバーの茨城県林業技術センターは、水戸市、一般社団法人いばらき樹木医会、ボランティアと連携して、2023年と2024年に水戸市森林公園において市民参加型の薪割り体験会を開きました。樹木医の指導のもと、カシナガの観察や防除法の解説を行い、ナラ枯れ対策について参加者に一定の理解を広げることができました。

広葉樹材としての活用と森林の更新

近年、国産広葉樹は家具材、建築用材としての利用が進み、ナラ材は人気が高く、高騰する傾向も見られます。価格の上昇を受けてナラ枯れ被害材の利用の可能性も模索されています。山形市の製材所では、家具メーカーの依頼を受け、ナラ枯れ材を板に製材して乾燥させて納入するという取り組みをしています。

研究統括者の北島博さん(森林総研)は「ナラ枯れ対策は、発生の予防や発生時の対処といった取り組みを進めるとともに、ナラ枯れが発生する前にナラ材を利用することも重要です」と話しています。さらには、発生後の広葉樹資源の活用と循環(森林更新)を考えることも広葉樹林と山村地域の再生のための重要な課題です。研究グループは、ナラ枯れ後の森林管理を考える資料として「ナラ枯れ跡地の広葉樹林更新」をまとめ、自治体などへの普及を進めています。
(https://www.ffpri.go.jp/pubs/chukiseika/documents/5th-chuukiseika32.pdf)

用語

*1 フラス   昆虫の成虫や幼虫が樹木を食害する際に排出する木くずと糞が混ざったもの。

*2 玉切り   採した木の幹を、運搬の条件や用途(建築材、薪など)に合わせて、一定の長さに輪切りにしていく作業のことです。伐採後の木を扱いやすいサイズに整える工程で、木材市場への出荷や薪ストーブ用の燃料作りなど、目的によって長さを調整します。

事業名

イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ・実用化研究型)

事業期間

2022年度~2024年度

課題名

With/Postナラ枯れ時代の広葉樹林管理戦略の構築

研究実施機関

国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所(代表機関)、北海道立総合研究機構森林研究本部林業試験場、青森県産業技術センター林業研究所、茨城県林業技術センター、群馬県林業試験場、埼玉県寄居林業事務所、大日本除虫菊株式会社中央研究所


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