生物系特定産業技術研究支援センター

イノベーション創出強化研究推進事業

ALSVベクターを利用した果樹・野菜・花卉のエピゲノム育種技術開発

年度2019ステージ応用研究分野農業 (野菜, 果樹, 花き)適応地域全国

キーワードリンゴ・トウガラシ・カーネーション・リンドウ、自家和合性、カプシエイト、花持ち、八重咲き

課題番号 26012AB
研究グループ 味の素(株) フロンティア研究所, 農研機構 花き研究部門, 岩手生物工学研究センター
研究総括者 岩手大学 吉川 信幸
研究タイプ 産学機関結集型 Aタイプ
研究期間 平成28年~30年 (3年間)
PDF版 ALSVベクターを利用した果樹・野菜・花卉のエピゲノム育種技術開発 (PDF:446.2 KB)

1 研究の目的・終了時の達成目標

園芸作物の画期的な新品種の育成のため、植物に無害な潜在性ウイルスであるリンゴ小球形潜在ウイルス (ALSV) を用いて、転写後型遺伝子サイレンシング (VIGS) を利用した遺伝子機能解析と転写型遺伝子サイレンシング (VITGS) を利用したDNAメチル化による形質改変を実施している。本研究では、リンゴ、トウガラシ、カーネーション、リンドウでVIGSとVITGSを行い、有用形質 (1自家和合性、2辛みのないトウガラシから抽出した天然成分であるカプシエイトの蓄積、3花持ち、4八重咲き) に関わる遺伝子機能の解析と新品種の育成を目標とした。

2 研究の主要な成果

  • 早期開花用ALSVベクターにリンゴのS-RNaseの一部を導入 したAtFT/MdTFL1/Sをリンゴ実生に感染させると受粉操作の有無にかかわらず高い結実性 (約8割の個体で結実) を示し、単為結果が誘導された。種子発芽後1年以内に果実を形成させ、その成分評価 (糖度、酸度など) ができるようになった。
  • 一般的なトウガラシ品種のpAMT遺伝子をVIGSによりサイレンシングすることで、カプシエイトを合成させることができるようになった。
  • カーネーションのDcAP2遺伝子およびナデシコのDcACS1遺伝子のVIGSにより、それぞれ、花持ちを延長させることができ、また、リンドウ品種'ももこりん'のGtAG1遺伝子のVIGSにより花弁を八重化し、GtAG2遺伝子をVIGSによりサイレンシングすることで雌蕊を多重化させることができた。
  • ALSVベクターを用いてリンゴ、リンドウ、トウガラシの標的領域のDNAメチル化を誘導することができた。

公表した主な特許・論文

  • Kasajima, I. et al. Rapid identification of apple (Malus x domestica Borkh.) S alleles using sequencing-based DNA marker APPLid. Plant Biotechnol. 34, 97-106 (2017).
  • Kasajima, I. et al. Apple latent spherical virus (ALSV) vector as a tool for reverse genetic studies and non-transgenic breeding of a variety of crops. Plant Epigenetics, pp. 513-536. Rajewsky N, Jurga S, Barciszewski J (eds.), Springer International Publishing AG, Cham, Switzerland (2017).
  • Nishihara et al. Development of basic technologies for improvement of breeding and cultivation of Japanese gentian. Breeding Science 68, 14-24 (2018).
  • 吉川信幸・山岸紀子. パワー・オブ・ウイルスベクター : 農作物と園芸作物の遺伝子サイレンシング (VIGS) と開花促進 (VIF). JATAFF ジャーナル6, 14-18 (2018).

3 今後の展開方向

  • 本研究を通して、様々な植物において比較的安定してVIGSの効果が発揮された。この技術を広く国内外で利用できるようにするため、令和元年度に岩手大学で受託解析サービスを開始した。
  • 本研究により作物での高速開花技術の有用性を再確認できた。今後は黒星病抵抗性のリンゴ新品種を開発するとともに、岩手大学で高速開花サービスを開始してこの技術が広く利用できるようにする。

【今後の開発・普及目標】

  • 2年後 (2020年度) までに、黒星病抵抗性で食味の良いリンゴ系統を3系統以上選抜する。
  • 5年後 (2023年度) までに、黒星病抵抗性リンゴ系統を圃場で試験栽培し、形質が特に優れた系統を1系統以上選抜する。また、イチゴやトルコギキョウの新品種開発も目指す。
  • 最終的には、育成したリンゴ品種を東北地方の主力品種として普及を図る予定。

4 開発した技術・成果の実用化により見込まれる波及効果及び国民生活への貢献

  • 今後、高速開花技術を利用して各種果樹・野菜・花卉の新品種開発を行う。
  • 園芸作物の高速開花技術は育種スピードを半分以下に短縮できる技術である。この技術を利用して、 今後、野菜・花卉・果樹の様々な新品種が生み出されてゆく。例えば、病気に強いリンゴ新品種の開発、温暖化に対応した品種や減農薬による安全なリンゴ品種を開発することができる。

ALSVベクターを利用した果樹・野菜・花卉のエピゲノム育種技術開発

問い合わせ先 : 岩手大学次世代アグリイノベーション研究センター TEL 019-621-6150