生物系特定産業技術研究支援センター

イノベーション創出強化研究推進事業

農地~国レベルでの窒素動態の実態を反映した新たな窒素負荷指標の開発

年度2019ステージ基礎研究分野農業 (農業環境)適応地域全国

キーワード窒素フットプリント、食料生産~消費 (フードチェーン) システム、食品ロス、環境保全型農業、食育

課題番号 28005A
研究グループ 農研機構 農業環境変動研究センター, 農研機構 西日本農業研究センター, 北海道大学北方生物圏フィールド科学センター, 茨城大学農学部、茨城県農業総合センター, 茨城県霞ケ浦環境科学センター, 千葉県農林総合研究センター, 愛知県農業総合試験場
研究総括者 農研機構 農業環境変動研究センター 江口 定夫
研究タイプ 一般型 Aタイプ
研究期間 平成28年~30年 (3年間)
PDF版 農地~国レベルでの窒素動態の実態を反映した新たな窒素負荷指標の開発 (PDF:730.4 KB)

1 研究の目的・終了時の達成目標

日本はOECD農業環境指標である農地の窒素収支が極めて高く、日本の食を支える集約的な農畜産業流域では、窒素汚染が局所的に深刻化・長期化し、解決の糸口が掴めていない。食料生産~消費 (フードチェーン) システム全体からの窒素負荷を最小限に抑えるためには、窒素循環の駆動力である消費者の理解・協力を得ることが必要不可欠である。本研究では、窒素フットプリント (人間の様々な消費活動に伴い環境中へ排出される窒素総量) に基づき、農地~国レベルの窒素動態の実態を反映した新たな窒素負荷指標を開発し、国・地域レベルの特性を活かした窒素負荷低減シナリオを提示する。

2 研究の主要な成果

  • 日本の有機物資源リサイクル (耕畜食連携システム) 、水田の脱窒・循環灌漑等を考慮した新たな窒素フットプリント計算フレームを構築し、その基盤となる統計・文献データベースを整備した。
  • 農地~国レベルのフードチェーンシステム全体 (食飼料輸入を含む) における窒素動態の実態を明らかにすると共に、国・地域レベルの特性を活かした生産側・消費側それぞれの窒素負荷削減シナリオを示した。
  • 消費者にとって身近な食 (献立メニュー) と栄養バランス及び窒素負荷を結びつける簡易ツールとして窒素フットプリント計算システムを作成し、市民を対象としたブッフェ形式の体験型食育イベント等で活用した。
  • 土壌中の水・炭素・窒素動態予測モデル「LEACHM」を開発し、各地の有機物連用圃場の長期観測データを用いてモデル検証することにより、窒素溶脱による水圏への環境影響評価ツールとしての妥当性を示した

公表した主な特許・論文

  • 江口定夫・平野七恵.日本の消費者の食生活改善による反応性窒素排出削減ポテンシャルと国連SDGsシナリオに沿った将来予測.日本土壌肥料学雑誌 90(1), 32-46 (2019)
  • Asada, K. et al. Modeling nitrogen leaching from composted-manure-amended soils by using a biogeochemical model, LEACHM, modified for cropped Andosols. Nutrient Cycling in Agroecosystems 110(2), 307-326 (2018)

3 今後の展開方向

  • 食の生産~消費だけでなく、栄養~環境影響もシームレスにつなぐ、画期的な窒素負荷評価手法の開発
  • 有機物資源の高度利用等による新たな窒素負荷削減技術の提示とシームレス「見える化」ツールの開発
  • 窒素フットプリントのエコラベル化、消費者意識向上、環境保全的活動に取り組む生産者・企業の収益増

【今後の開発目標】

  • 2年後 (2020年度) は、食の栄養バランス (人の健康) から環境影響までをつなぐ窒素負荷の見える化
  • 5年後 (2023年度) は、「見える化」ツールの実用化、環境保全的活動に取り組む生産者・企業の収益増
  • 最終的には、食の栄養バランス改善と環境保全型フードチェーンによる窒素環境影響の最小化が両立

4 開発した技術シーズ・知見の実用化により見込まれる波及効果及び国民生活への貢献

  • 窒素フットプリントの普及により、消費者が食のカロリーや栄養バランス等の健康面だけでなく、環境面も考えながら献立メニューを選ぶのが当たり前の社会となり環境保全型フードチェーンシステムが構築される。
  • 環境保全的な生産方式 (耕畜食連携システム、循環灌漑等) による低窒素負荷農畜産物の付加価値が高まり、国際競争力の向上や輸出拡大、食料自給率 (食料安全保障) の向上等が期待できる。
  • 低コスト・汎用的な有機物リサイクルの技術革新、有機物主体の施肥を大前提とした作物育種 (有機物施用条件下の窒素利用効率が高く品質が優れた作物の育種) の技術革新等が進む。
  • 国連の持続可能な開発目標 (SDGs) No.12 「責任ある消費と生産」、消費者庁が推進する「倫理的消費」、「食品ロス削減推進法」に明記された国民運動、県行政の湖沼水質保全計画の策定等に大きく貢献する。

農地~国レベルでの窒素動態の実態を反映した新たな窒素負荷指標の開発

問い合わせ先 : 農研機構 農業環境変動研究センター 江口 定夫 TEL 029-838-8326