生物系特定産業技術研究支援センター

イノベーション創出強化研究推進事業

養殖魚の育種効率化に向けた育種パイプラインの構築とその実証

年度2019ステージ基礎研究分野水産 (養殖)適応地域全国

キーワードトラフグ、ゲノム育種、白子早熟、体サイズ、高速ジェノタイピング

課題番号 28006A
研究グループ 東京大学大学院農学生命科学研究科, 長崎県総合水産試験場
研究総括者 東京大学大学院農学生命科学研究科 細谷 将
研究タイプ 一般型 Aタイプ
研究期間 平成28年~30年 (3年間)
PDF版 養殖魚の育種効率化に向けた育種パイプラインの構築とその実証 (PDF:359.4 KB)

1 研究の目的・終了時の達成目標

天然資源に頼らない水産業の発展において養殖魚の育種化は必須だが、我が国では選抜育種の導入が遅れている。我々は我が国の養殖業全体で育種化を促すような先導的成果をあげるため、トラフグを材料に高度ゲノム情報を用いたゲノミックセレクション法による選抜育種が可能であることの実証、ならびに優良系統の品種化を目指している。本研究では、ゲノミックセレクションを主要養殖対象魚種で実行可能にするための技術基盤を整備するとともに、本技術により選抜育種のポテンシャルを実証することを達成目標とする。

2 研究の主要な成果

  • トラフグを対象に、次世代シーケンサーを利用して300個体からおよそ3,000SNP座を同時に多型解析できる 「高速ジェノタイピング法」を確立した。1個体あたり4,000円程度と安価で、解析結果の再現性が高い。
  • 養殖トラフグ集団の体サイズと白子早熟形質を対象に、ゲノミックセレクション法による選抜育種が可能であることを明らかにした。
  • 後代検定により、体長と体重に関するゲノミックセレクションの効果を検証した。その結果、ゲノム情報から予測した親魚の能力と、後代検定の結果で得た親魚の能力に高い相関が認められ、実効性が示された。
  • 取得した次世代シーケンサーのデータから親魚選抜までが実行可能な解析パイプラインを構築した。このシステムをWINDOWS上でも実行可能とし、普及性の高いものとした。このパイプラインは、他魚種でも利用可能である。

3 今後の展開方向

  • 事業者による海面試験を取り入れながら白子早熟系統の選抜を進め、品種化を図る。
  • 同系統由来の種苗の全国的な普及に向け、出荷体制を整備する。
  • 構築した解析パイプラインを随時アップグレードしながら、他魚種での利用を進める。

【今後の開発目標】

  • 2年後 (2020年度) は、事業者による海面試験データを用いて選抜をすすめ、普及体制を整備する。
  • 5年後 (2023年度) は、長崎県内で選抜系統の出荷を始めるとともに全国的な普及体制を整備する。
  • 最終的には、ブリやヒラメなどの主要養殖対象魚種へ技術移転し、ほとんどを育種系統に置き換える。

4 開発した技術シーズ・知見の実用化により見込まれる波及効果及び国民生活への貢献

  • 選抜育種が養殖魚全般に普及すれば、成長速度、餌料効率、低魚粉耐性、耐病性が大幅に改善されるなど経済効果は計り知れない。例えば、優良トラフグ家系が品種化された場合に見込まれる増収を試算したところ、白子早熟系統の付加価値は30%であり、流通量の1割が当該系統に置き換わった場合における経済効果は白子だけで5億円程度、体重増加でさらに1億円程度であると期待される。
  • 多くの魚種で育種化がすすめば、生産効率の大幅な改善が見込まれ、低環境負荷・高効率養殖を実現でき、経済効果も極めて大きいことが期待される。また、付加価値の高い養殖魚の作出が可能になると共に、生産量と品質が安定することで価格も安定し、流通、加工レベルでも費用対効果が改善されることが期待される。

養殖魚の育種効率化に向けた育種パイプラインの構築とその実証

問い合わせ先 : 東京大学 細谷 将 TEL 053-592-2821