年度 2020 ステージ 基礎研究 分野 畜産-家畜衛生 適応地域 全国 キーワード 牛乳房炎、早期診断法、炎症誘起因子、シクロフィリンA、イムノクロマト |
課題番号 | 29006A |
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研究グループ | 東北大学大学院農学研究科、宮城県畜産試験場、よつ葉乳業 |
研究総括者 | 東北大学 麻生 久 |
研究タイプ | 一般型 |
研究期間 | 平成29年~令和元年 (3年間) |
PDF版 | ウシ乳房炎早期診断キット開発による牛群管理技術への応用戦略 (PDF:559.7 KB) |
1 研究の目的・終了時の達成目標
乳房炎はウシ疾病の中で最も発症頭数が多く、日本の経済的損失は年間1000億円と推定されている。我々は、世界で初めて白血球遊走因子シクロフィリンAが、乳房炎を発症した乳腺上皮細胞で強く発現し、腺胞内乳汁へ分泌されることを発見した。本研究では、シクロフィリンAの乳汁中への分泌と乳房炎病態との関連性を明らかにし、乳汁中体細胞数が低い乳房炎発症前段階の牛の乳汁中に含まれるシクロフィリンA濃度の閾値に基づき、酪農現場で簡便に測定可能なウシ乳房炎早期診断法を開発する。
2 研究の主要な成果
- 乳汁中シクロフィリンA濃度の著しい変動と上昇の後に乳房炎を発症することを発見し、シクロフィリンAには乳汁中体細胞数を増加させる乳房炎誘起能を有することを乳頭孔投与によって証明した。
- シクロフィリンAは乳腺上皮細胞における炎症性ケモカインの遺伝子発現を上昇させることを発見した。
- 乳汁中ではエクソソームに抱合されないシクロフィリンAが検出され、乳房炎発症の危険性が高いと判断される乳汁中シクロフィリンA濃度の閾値は430ng/mlと試算された。
- 乳汁中シクロフィリンAの多検体を高感度に検査できるELISAキットの開発は完了し、乳汁中シクロフィリンAを25.9 ng/mlまで検出可能なイムノクロマトキットの試作品作製に成功した。
公表した主な特許・論文
- 乳汁中シクロフィリンA濃度の測定による「乳腺疾患の検査方法」は、日本 (特許第6176741号、2017年) と米国 (US 10,012,649 B2、2018年) において特許を取得した。
- T. Zhuang, et al. Phenotypic and functional analysis of bovine peripheral blood dendritic cells before parturition by a novel purification method. Animal Science Journal, 89 (7): 1011-1019, 2018.
- A. Islam, et al. Transcriptome analysis of the inflammatory responses of bovine mammary epithelial cells: exploring immunomodulatory target genes for bovine mastitis. Pathogens, 9, 20, 1-18, 2020.
3 今後の展開方向
- シクロフィリンAの乳房発症機構の解明を行い、新たな炎症因子測定系の開発に加え、シクロフィリンAに対する抗体を用いた治療法開発への応用を図る。
- 地域性と季節性の影響を解析し、乳房炎発症の危険性が高い乳牛を選抜する乳汁中シクロフィリンA濃度の閾値を決定し、酪農現場での閾値測定が可能なイムノクロマトキットの改良を行う。
【今後の開発目標】
- ELISAキットは多検体の受注検査を行う会社の設立を図って実施を見込む。(2022年度)
- イムノクロマトキットの普及を図り、検査キットの薬事承認申請を行い、2023年度での製品化を図る。
- 乳牛60万頭の検査を可能にする牛群検定 (家畜改良事業団) の検査項目としての運用を図る。
4 開発した技術シーズ・知見の実用化により見込まれる波及効果及び国民生活への貢献
- ウシ乳房炎の早期診断が可能になることにより、開発した早期診断法で乳房炎移行が10%救済できれば100億円が軽減され、治療に用いられる抗生剤の使用量が低下し、国内外で対応が求められている家畜衛生および公衆衛生上の薬剤耐性菌問題の解決の一助となる。
- 国の進める「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」に基づいた環境負荷軽減に加え、安全で安心な生乳と乳製品を消費者に更に安価で供給することに貢献できる。
問い合わせ先 : 東北大学 麻生 久 TEL 022-757-4311