乗用トラクター
その1.左右独立ブレーキの非連結状態を警告する装置
一般的な乗用トラクターでは、ブレーキペダルが左右輪で独立しています。これは旋回時に内側の後車輪のみにブレーキをかけて小回りを効かせるためのものです。一方で、路上など比較的高速で走行している時に片側のブレーキだけを踏んでしまうと、急旋回を引き起こして衝突や転倒、転落の原因となり、大変危険です。そのため、作業上必要な時以外は、左右同時にブレーキが作動するよう、常に左右のブレーキペダルを確実に連結する必要があります。

図1 左右独立ブレーキの連結部の例(左:連結、右:非連結状態)
そこで、農業機械安全性検査では、左右のブレーキペダルが非連結状態であることを表示する警告ランプ等の装着を基準に定めています。また、近年、警告ランプだけでなく、片ブレーキをかける時は、左足で片ブレーキ解除ペダルを踏まないと右足で片ブレーキがかけられない構造のより安全性の高い乗用トラクターも多く販売されています。
なお、過去のアンケート調査では、路上走行時にブレーキペダル連結を「実行しない時もある」との回答数が3割を超えていました。片ブレーキで事故を起こさないよう、警告ランプを確認し、必ず連結する習慣をつけましょう。

図2 左右独立ブレーキ非連結状態の警告ランプの例
その2.旋回時の前輪増速機構の作動を表示する装置
近年販売されている多くの乗用トラクターは、旋回時の前輪増速機構を備えています。これは、一定の角度以上に前輪が操舵されたときに、片側の前輪の回転速度を増加させて、ほ場表面の土の荒れを抑えながら、スムーズに小さく旋回するための機構です。
前進増速機構は、作業上は大変便利な機構ですが、例えば走行時にこの機構が作動すると、急旋回を引き起こして転倒などの危険が伴うため、低速であっても、ほ場内の作業で上必要なとき以外は、安全のために、常に「切」にする必要があります。
そこで、農業機械安全性検査では、旋回時の前輪増速機構が機能する状態にあることを表示して、運転者に注意を促す装置の装着を基準に定めており、安全性検査合格機には、旋回時の前輪増速機構が機能する状態にあることを表示して、オペレータに注意を促す装置が装備されています。この他、高速度段では前輪増速機構が作動しないよう自動的にけん制する構造を備えた機械も販売されています。

図 旋回時の前輪増速機構の作動を表示するランプの例
その3.デフロックの作動に関する装置
カーブ走行の際、外側の車輪は内側の車輪より長い距離を走行し、"回転差"が生じます。スムーズに走行するため、この回転差をうまく調整する装置がデファレンシャルギア(デフ、差動装置)です。
デフロック装置は「デフをロック(固定)する装置」で、ぬかるみ走行時に片輪がスリップして進行できなくなった時や、プラウ作業時などで直進性が保てなくなった時に作動させることで、左右の車軸の回転差がなくなり、ぬかるみから抜け出やすくなったり、直進性を保つことができるようになります。しかしながら、必要な時以外にデフロック装置が作動してしまうと、思うように操向できず事故を起こす危険があるため、路上走行時などデフロックが必要ない場合は必ず「切」にして運転する必要があります。

図 デフロックの作動を表示するランプの例
そこで、農業機械安全性検査では、デフロックペダル(またはレバー)を操作している間だけロックするものや、レバーの操作位置が運転席から明らかに認識できるもの以外は(例えばスイッチなど)、ランプなどでデフロック状態であることを表示し、注意を喚起する装置を装備するように定めており、安全性検査合格機には、デフロックの作動を表示する装置が装備されています。
その4.シートベルト非着用時の警報装置
オペレーターがシートベルトを未装着時に赤色の警告ランプや警報等によりシートベルト装着を促す装置です。一般的には「シートベルトリマインダー」とも呼ばれています(以下、シートベルトリマインダー)。
過去の調査から、乗用トラクターのオペレーターを保護する安全キャブ・フレームが搭載された機種においてもシートベルトが未装着であったため、転倒・転落時に機体外に投げ出され死亡・重症に至ったと推察される事故が発生しています。

図 シートベルトリマインダーの作動を表示するランプの例
そこで、農業機械安全性検査においても2025年度より乗用トラクターへのシートベルトリマインダーの装備を要件に追加しました。なお、ランプ等はオペレーターが容易に確認できる位置にあること、キーON状態においてシートベルトが非着用の場合にはランプもしくは警報等による注意喚起を一定時間以上行うこと、走行時にシートベルトが非着用の場合には、一定時間以上ランプおよび警報による二つの注意喚起を行うよう定めており、2025年度以降の安全性検査合格機には、シートベルトリマインダーが装備されています。
その5.PTOインターロック
乗用トラクターにおいて、オペレーターが離席時に回転する作業機等に巻き込まれ、死亡・重傷等の重大な事故につながる危険があるため、農業機械安全性検査では、2025年度よりPTOインターロックの装備を要件に追加しました。停車中にPTO軸への動力を接続した状態でオペレーターが離席するとPTO軸の回転を停止させるよう定めており、2025年度以降の安全性検査合格機には、PTOインターロックが装備されています。