自脱型コンバイン
その1.手こぎ作業時緊急停止装置
自脱型コンバインによる収穫作業においては、ほ場四隅で手刈りしたわらや詰まり除去で発生したわらに対して、手こぎ作業ができるような構造がユーザから求められています。しかし、この作業ではフィードチェーンの近くに立ってわらを手で直接フィードチェーンに送り込む必要があり、身体や衣服などが巻き込まれる事故が少なくありません。このような事態を回避するために、農業機械安全性検査では、手こぎ作業時に容易に手の届く場所へのエンジンの緊急停止装置の装備を求めています(図)。緊急停止装置作動後は、運転席でクラッチを切って再始動しないかぎり、手こぎ作業位置からはエンジンがかからない構造になっています。

図 手こぎ作業時緊急停止装置の例
ちなみに、令和9年度以降の安全性検査基準では、停車中に作業クラッチを「入」にしたまま作業者が運転席を離れた場合に、刈取部やフィードチェーン、排わらチェーンなどの可動部を停止させる構造を求めています。これは可動部を動作させながらのメンテナンス作業は危険なため、そのような作業を行わせない目的ですが、手こぎ作業へのニーズも考慮する必要があることから、両手または片手での継続した操作などによって安全に手こぎ作業を行わせる構造の機械であれば基準適合と判断しています。
その2.カッタの防護
自脱型コンバイン後方には、脱穀後の排わらを細断するカッタが装備されています。このカッタは非常に切れ味が鋭く、誤って触れると手指の切断などの重傷事故に繋がるおそれがあります。そこで、容易に手が可動部に届かないように、開口部分からカッタまで一定の距離を確保する必要がありますが、距離が確保できない場合は、わら処理部の入口側に開閉式のガードを設けることで対応しています。このガードは、わらの流量に応じて開閉し、作業に支障を生じない構造となっています。
カッタの刃によって手などを負傷する事故は、数多く報告されていますので、わらの詰まりや泥などを取り除く時は、必ずエンジンを止め、厚手の手袋をし、刃に直接触れないようにしてください。また、こぎ胴が回っている間は、こぎ残したわらがあっても、絶対に手を触れないよう、補助者も含めて徹底するようにしてください。
その3.カッタ自動停止装置
自脱型コンバイン後方のわら処理部には排わらチェーンやカッタがあります。生育が過剰な作物や水分が高い作物を収穫すると詰まりが発生することがあり、わら処理部を作動させたまま詰まりを取り除こうとして負傷する事故が見られます。このような事故を防ぐため、詰まりが発生した時にエンジンを停止してカッタや排わらチェーンの動力が自動的に切断される構造になっています。具体的には、排わらチェーンの動線上やカッタカバーにリミットスイッチなどのセンサが取付けられており、わらが滞留するとスイッチが「入」になってエンジンが切れるような仕組みになっています(図)。また、刈取部の詰まりに対応するために同様の装置を備えている型式もあります。
カッタ部における事故は重傷となりますので、エンジンが停止していない状態では、絶対に手を入れないでください。

図 カッタ自動停止装置の例
その4.オーガ排出口の防護
自脱型コンバインではグレンタンク方式が一般的で、もみ排出装置(排出オーガ)の排出能力や操作のしやすさが重要となっています。その際、オーガ排出口に求められるのは、もみの流れが良く、詰まりにくいこと、排出状態が見やすいこと、排出される範囲の広さが適度なことなどとされています。そのため、排出口が短くて材質が柔らかいほど排出作業がしやすくなりますが、これが行き過ぎると、詰まりを取り除こうとしたり、もみをかき出そうとしたりした時に、不用意に可動部に手を触れてしまい、思わぬケガをするおそれがあります。そのような事故を防止するため、オーガ排出口に対しては、機能性を損なわない範囲で先端のビニル素材を含めて一定の安全距離を確保するよう、農業機械安全性検査では求めています(図)。
接触などにより、先端のビニル素材が破損することがありますが、これらは事故を防ぐ防護の一部ですので、その場合は必ず交換してください。

図 オーガ排出口の防護の一例