歩行用トラクター
その1.緊急停止装置
歩行用トラクターでは、後退時にハウス、樹木などの背後の障害物に気が付かずに機械と障害物との間に挟まれる、後退時にクラッチレバーを急に入れることでハンドルが急に跳ね上がる、土の固いほ場で深く耕うんすることでロータリーの回転で機械が急に前方へ押し出される「ダッシング」が発生する、作業者が転倒して機械が作業者に迫るなどの様々な危険事象があります。危険事象が起きた、または起きそうになった緊急時に、作業者が容易に機械を停止させることができる機能が望まれます。
そこで、緊急時に手で押下することでエンジンを停止するための緊急停止装置(図)があり、具備した型式では、手で容易に操作できる位置に装備されています。

図 緊急停止装置
緊急停止装置が装備された機械では、その位置を確認し、「いざという時」に緊急停止装置を押せるようにしておきましょう。
農業機械安全性検査では、後進速度段を有する歩行用トラクターには、ハンドルが持ち上がったり、機械とハウス、立木あるいは納屋などの間に挟まれたりといった緊急時において、ワンタッチでエンジンを停止できる緊急停止装置を手が容易に届く位置に装備するように基準に定めています。
なお[その2]に紹介するデッドマン式の主クラッチや[その3]に紹介する狭圧防止装置は、緊急停止装置と同等の機能と見なしており、これらが緊急停止装置に代わって装備されている機械もあります。
その2.デッドマン式クラッチ
デッドマン式クラッチ(図)とは、クラッチレバーを握っている間は動力が伝達され、手を離すとクラッチレバーが自動的に戻って動力が切れる構造のクラッチです。作業者が挟まれそうになる、転倒する、機械がダッシングするなどの不測の事態が起きた場合に、クラッチレバーから手を離すことで機械の動きを止めて事故を防ぐことができます。

図 デッドマン式クラッチの一例
デッドマン式クラッチが装備されている機械では、「いざという時」に「クラッチレバーから手を離す」動作ができるようにしておきましょう。
なお、農業機械安全性検査では、デッドマン式クラッチを、[その1]で紹介した緊急時においてワンタッチでエンジンを停止できる緊急停止装置と機能的に同等とみなしています。
その3.ハンドル回動時の高速度段けん制装置
歩行用トラクターでは、ハウス内などの狭い場所でも作業がしやすいようにハンドルを回動させることができるものもあり、前進と後進が通常の状態とは逆になることがあります。その状態で作業を行う場合、走行変速レバーが高速度段に入ってしまうと、機械が作業者に高速で迫ってきて、挟まれ・転倒の危険性が高まります。
そこで、農業機械安全性検査では、ハンドルを標準位置から90度以上回動させることができる歩行用トラクターにおいて、回動させた状態のときに作業者が後退して作業するものにあっては、その方向の最高速度が2.5km/hを超えないことを基準に定めており、安全性検査合格機にはハンドル回動時の高速度段けん制装置が装備されています。更にR9年度以降はこの高速度段けん制装置は自動ではたらくことを求めています。
なお、速度が低くても、後退時には常に挟まれ、転倒の危険性があります。後退時には常に危険を意識して作業するようにしましょう。
その4.後進時のロータリー停止装置
歩行用トラクターで比較的多い事故の一つに、「ロータリークラッチが入っているのに気が付かず、走行変速レバーを後進に入れて発進した途端にロータリーが回転し、足が耕うん爪に巻き込まれる。」といったものがあります。後退時の安全性確保のためには、後進時にロータリーが回転しないことが望まれます。
そこで、後進時にロータリーに巻き込まれることのないよう、農業機械安全性検査では、機体と通常の作業者位置との間にロータリーがある歩行用トラクターには、後進時にロータリーに巻き込まれることのないよう、走行変速レバーを後退位置に入れるとロータリーが自動的に停止する装置又はロータリーを停止しないと走行変速レバーが後退位置に入らないけん制装置を備えることを基準に定めており、安全性検査合格機には後進時のロータリー停止装置が装備されています。
その5.ロータリー後部カバー
歩行用トラクターでは、その多くが作業者の足元でロータリーが回転する構造となっています。そのため、不用意につま先を近づけてしまうと巻き込まれる恐れがあり、大変危険です。
そこで、農業機械安全性検査では、歩行用トラクターのロータリカバーと地面とのすき間が25mm以下であることを要件としており、安全性検査合格機は、誤ってロータリーへ接触しないようにカバーで防護されています。

図 後部カバーの一例
ロータリー後部カバーは土の飛散を抑えることだけを目的として装着されているわけではありません。清掃等で後部カバーを跳ね上げた場合や取り外した場合でも、作業を行う際には必ず元の状態に戻し、不用意に足をロータリーに近づけないよう注意しながら作業を進めるようにしましょう。