生物系特定産業技術研究支援センター

(25006A) アミノ酸シグナルを利用した高品質食資源の開発技術の確立

事業名 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(シーズ創出ステージ)
実施期間 平成22~26年(5年間)
研究グループ
(研究終了当時)
東京大学、早稲田大学、明治大学、日本医科大学、農研機構 畜産草地研究所
作成者 東京大学大学院農学生命科学研究科 高橋 伸一郎

1 研究の背景

動物が全アミノ酸量や特定のアミノ酸が要求量に達していない食餌を摂取すると、アミノ酸シグナルの変動に応答し、タンパク質代謝が制御され、臓器特異的な脂肪蓄積が起こっていると推定された。

2 研究の概要

ラット・マウスのモデル系において、種々の臓器がアミノ酸シグナルの変動をモニターして、脂肪蓄積を誘導する分子機構を解明する。これを利用して脂肪が交雑した豚肉、フォアグラのような白肝、筋肉脂肪量を調節した天然魚に近い魚肉の生産を試みた。

3 研究期間中の主要な成果

  • 飼料中のリジンを不足させることにより、胸最長筋と菱形筋の筋肉内脂肪含量が6%に増加するブタの肥育に成功した。
  • 飼料中のタンパク質を不足させることにより、トリの肝臓に脂肪を蓄積させることに成功した。

4 研究終了後の新たな研究成果

  • 肥育豚のリジン要求量が日本飼養標準 (2013年版、農研機構) に記載されている値 (肥育後期乾物中含量 0.72%) よりも高いことが明らかとなった。
  • モデル動物であるラットに低リジン食 (乾物中含量 0.47%) を給餌した際に、血中のリジン濃度が下がるだけではなく、血中のスレオニン濃度が上昇することが明らかとなった。

5 公表した主な特許・品種・論文

  • 高橋伸一郎、潮秀樹、加藤久典、伯野史彦、柴田重信、竹中麻子、豊島由香、勝俣昌也、中島一喜 アミノ酸シグナルを利用した高品質食資源の開発技術の確立. JATAFFジャーナル4: 4 (2016)
  • 西宏起、伯野史彦、高橋伸一郎 アミノ酸の新機能 : 血中プロファイルに応じた脂質代謝の変動 バイオサイエンスとインダストリー76: 467-471 (2018)

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

低リジン飼料給与による霜降り豚肉はすでに岐阜県からボーノポークとして出荷、販売されている。岐阜県内の食肉店やスーパーマーケットの店頭で販売され、消費者の認知度も大変高く好評である。しかし、昨年 (2019年) に発生した豚コレラの影響で種豚の生産が滞って、流通・販売量が少なくなっていたが、現在、再び生産が回復しつつある。なお、現在岐阜県内の出荷豚の約50%がボーノポークぎふに認定されている。

(2) 実用化の達成要因

生産者、飼料会社、加工業、流通業、食品業界など、生産から消費者の口に運ぶまでを目的としているバリューチェーンのすべてのメンバー全面的な協力を得られたこと。

(3) 今後の開発・普及目標

将来的には、東京大学を代表とした産学合わせて14の機関で構成される研究コンソーシアムなどによる研究活動を通じて、科学的根拠に基づいた霜降り豚肉の生産技術の安定化、ブランド化、世界規模の販売経路の定着化を実現する。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

ボーノポークの安定生産に使用した技術およびその科学的知見を他系統・品種の霜降り豚肉での生産に応用して、その安定生産技術が普及すると、生産、流通、販売業界へ大きな経済効果をもたらす。一方、消費者は嗜好に合った品質の豚肉が購入でき、食生活の質的向上が実現する。

(25006A) アミノ酸シグナルを利用した高品質食資源の開発技術の確立