生物系特定産業技術研究支援センター

(ウィルス4) ナノテクノロジーとラップトップ型PCR測定機による家禽・家畜ウイルスの正確・超高感度・簡便検出法の開発

事業名 革新的技術創造促進事業(異分野共同研究)
実施期間 平成26~28年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
鹿児島大学 大学院理工学研究科、鹿児島大学 共同獣医学部、産業技術総合研究所関西センター
作成者 鹿児島大学 大学院理工学研究科 隅田 泰生

1 研究の背景

鳥インフルエンザウイルス (AIV) には多くの種類 (亜型) が存在するが、特に高病原性鳥インフルエンザウイルス (HPAIV) が大きな脅威となっている。渡り鳥から感染が起こると考えられているが、HPAIVの発生が養鶏場で確認されると、大規模処分が行われ、大きな被害が生じる。また、通常HPAIVは人には感染しないが、高濃度のウイルスにさらされると稀に人も感染する。さらにHPAIVの変異は地球規模で恐れられている。

2 研究の概要

恒常的に養鶏場、その周辺、さらに渡り鳥の生息地を検査し、AIVを早く発見して被害を最小限に抑えることが重要である。抗体を用いたイムノクロマト法による簡易検査や機器を用いた高感度検査が開発されつつあるが、インフルエンザウイルスは変異が起こりやすいため、偽陰性と判断される危険があり、HPAIVの蔓延を誘発する要因ともなりえる。そのため、ウイルスの遺伝子をオンサイトでも簡便・迅速、かつ高感度に測定できる技術が非常に重要となっている。そこで、HPAIVの超早期迅速検査技術を開発し、まず鹿児島県のオンサイトで実用化することを目標とし、研究を行った。

3 研究期間中の主要な成果

  • AIVの捕捉濃縮精製手順を確立し、従来のラップトップ型qPCR機をワンステップでRT-qPCR測定が出来る機器へ改良して、ウイルスの高感度迅速検査を可能とした。
  • 開発した超早期迅速検査技術によりオンサイト検査の実証研究を行った。鹿児島県出水市と同市の嘱託獣医師の全面的協力を得て、出水市の渡鳥生息地において、2015~16シーズンには合計48羽の野鳥 (47羽がツル)、2016~17シーズンには、2017年1月30日までに48羽のツルのスワブ (喉、目、クロアカ) の検査を行った。2015~16シーズンはAIVの検出は1例もなく、2016~17シーズンには17羽からAIVが検出された。同時に行ったウイルス分離検査では、2015~16シーズンは0、2016~17シーズンは19羽からAIVが検出され、両者の結果がほぼ一致したことから、開発した検査法によるオンサイト検査の信頼性が確かめられた。

4 研究終了後の新たな研究成果

2018年度、「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業を「糖鎖ナノバイオコンソーシアム」として実施し、新たに28検体を検査したところ、オンサイト検査、実証実験としてのウイルスの分離培養試験とも、全て陰性であった。このモデル事業で、ウイルスが結合する糖鎖を固定化したナノ粒子を用いたウイルスの捕捉濃縮精製法を、豚流行性下痢 (PEDV)、豚繁殖・呼吸障害症候群 (PRRSV)、牛呼吸器合胞体 (BRSV)ウイルスに適用し、かつ遺伝子変異にも適応できるインターカレーター法も可能な携行型高速高感度多検体同時測定型PCR測定機も開発し、簡便かつ超高感度のウイルスオンサイト検査システムを完成させた。また、炎症性が無い、免疫増強活性を有する低分子と糖鎖を固定化した金ナノ粒子が、高い抗体産生能があることを発見し、新しいワクチンアジュバントとして動物実験まで行い効果を確認した。

5 公表した主な特許・品種・論文

  • 米国特許 9464281, Method for concentrating viruses, method for concentrating cells or bacteria, and magnetic composite ((株)スディックスバイオテック、鹿児島大学、(株)ニート)
  • Ozawa, M. et al., Genetic diversity of highly pathogenic H5N8 avian influenza viruses at a single overwintering site of migratory birds in Japan, 2014/15, Eurosurveillance, 20(20), 15-27 (2015)
  • Okamatsu, M., et al., Characterization of Highly Pathogenic Avian Influenza Virus A(H5N6), Japan, November 2016, Emerging Infectious Diseases, 23(4), 691-695 (2017)

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 2.5年間の出水市での検査の結果、鳥インフルエンザウイルスの発見を当日中に、どこよりも早く鹿児島県および出水市に通知することができた。この情報に基づき、鹿児島県の家畜保健衛生所と養鶏業者が、官民一体となって、高い危機意識の下、養鶏場でのHPAIV発生を未然に防ぐための防疫対応を行った結果、特に2016-17シーズンは近隣県で大きな被害が出ているにもかかわらず、鹿児島県内では全く被害が出ず、正確な情報に基づく初動体制がいかに重要かが明確になった。
  • 本事業終了後、実証研究を継続するため平成28年度の「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業に応募し、採択された (研究期間 : 平成29年2月から令和2年3月まで)。この事業によって、研究成果の社会実装を加速できた。

(2) 実用化の達成要因

関係機関の承認が得られれば本検出法を家畜用診断キットとして実用化に進めることができる。

(3) 今後の開発・普及目標

  • 本検査法について、PMDA (医薬品医療機器総合機構) の認可を得るため、現在ヒトインフルエンザウイルスの高感度検査法の臨床性能試験 (体外診断薬における治験) を実施している。2021年度にPMDAへ申請予定であり、早期に認可を得られるよう目指している。
  • 当面は鳥インフルエンザウイルスをPCR法で測定するために、ウイルス濃縮等の前処理を行う一般試薬として、株式会社スディックスバイオテックが2021年度に少なくとも10万検体分を販売できるように準備をしている。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

確立した方法は、鳥インフルエンザだけでなく、家畜家禽や人のウイルス検査に広く用いることができるため、畜産業界の損失防止、過剰な薬剤の使用削減、社会活動の停止時期の短縮などが可能で、その結果大きな経済効果が得られるので、国民生活への貢献度も大きい。

(ウィルス4) ナノテクノロジーとラップトップ型PCR測定機による家禽・家畜ウイルスの正確・超高感度・簡便検出法の開発