生物系特定産業技術研究支援センター

(27020C) 薬剤使用の制約に対応する松くい虫対策技術の刷新

事業名 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
実施期間 平成27~29年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
森林研究・整備機構 森林総合研究所、青森県産業技術センター林業研究所、岩手県林業技術センター、山形県森林研究研修センター、山口県農林総合技術センター、岩手県農林水産部森林整備課
作成者 森林研究・整備機構 森林総合研究所 中村 克典

1 研究の背景

日本の松林を松くい虫被害から守るため、農薬等の薬剤の使用が制限される場面でも有効な松くい虫被害対策技術の開発や既存技術の高度化が求められている。

2 研究の概要

松くい虫被害の原因であるマツノザイセンチュウを運ぶマツノマダラカミキリの発生・移動分散を抑制する駆除技術と、カミキリの移動経路になる松林の伐採を促進するための松材新規用途を開発し、植栽場面に応じたマツノザイセンチュウ抵抗性マツの生産・供給体制を確立した。

3 研究期間中の主要な成果

  • 環境低負荷な媒介昆虫駆除技術として被覆・粘着資材を用いた防除法の汎用性を実証した。
  • 松くい虫被害木の木質バイオマス燃料としての利用を促進するモデルを提示した。
  • 既被害地で求められる強抵抗性クロマツ、未被害地での植栽に必要なマツノザイセンチュウ非感染抵抗性クロマツを作出し、採種園造成をすすめた。

4 研究終了後の新たな研究成果

  • 製品化された被覆・粘着資材の施用時に問題となる野生動物による破損被害の発生実態を解明した。
  • 岩手県内において松くい虫被害木の燃料利用に関わる事業体の意向調査を実施し、利用拡大には供給サイドでの作業性や収益性の向上が必要であることを明らかにした。その実現には、林野庁がすすめる森林経営計画の樹立促進が解決策のひとつとなることを指摘した。
  • プロジェクトの内容をとりまとめた書籍を出版した (「森林保護と林業のビジネス化」日本林業調査会、2019年2月、212頁)。

5 公表した主な特許・品種・論文

  • 杉本博之他. マツノマダラカミキリ逸出抑制法の寒冷地への適用. 森林防疫 68(2), 41-48 (2019)
  • Nakajima, G. et al. Spatial and temporal distribution of Bursaphelenchus xylophilus inoculated in grafts of a resistant clone of Pinus thunbergii. J. For. Res. 24, 93-99 (2019)

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 省労力で環境低負荷な媒介昆虫駆除手法である被覆・粘着資材の10以上の自治体等への販売を実現し、普及に向けた取り組みを進めた。
  • 地元自治体や素材生産業者との協力体制により、岩手県における木質バイオマス発電所における松くい虫被害材利用量が従前の18~45倍となる3,000~7,500トンにまで拡大した。

(2) 実用化の達成要因

薬剤を使わない環境低負荷な松くい虫防除技術に対する社会のニーズは以前より高く、また防除現場では省労力な手法が求められていた。

(3) 今後の開発・普及目標

被覆・粘着資材について、知名度向上と現場への導入促進をすすめ、松くい虫防除事業における国庫補助対象への早期の採択を目指す。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

防除薬剤の多用に対する国民の不安を解消しつつ、防災や景観、地域経済に貢献する松林の保全が図られる。

(27020C) 薬剤使用の制約に対応する松くい虫対策技術の刷新