生物系特定産業技術研究支援センター
(28030C) 防除効果の高い厳しい条件での水稲種子の温湯消毒を可能にする技術の実用化
事業名 | イノベーション創出強化研究推進事業(開発研究ステージ) |
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実施期間 | 平成28年~30年(3年間) |
研究グループ (研究終了当時) |
東京農工大学、株式会社サタケ、富山県農林水産総合技術センター、秋田県立大学、信州大学 |
作成者 | 東京農工大学 金勝 一樹 |
1 研究の背景
防除効果が不十分である水稲の温湯消毒法において、種籾の水分含量を低下させる(事前乾燥処理)と高温耐性が著しく向上することを見出した。これを利用して、高温で温湯消毒できる技術の実用化を目指した。
2 研究の概要
事前乾燥処理を組み込み、通常より5℃も高い65℃で10分間という温湯消毒法(新技術)を提唱し、生産現場における実用性を実証した。また新技術の防除効果についても検証した。
3 研究期間中の主要な成果
- 事前乾燥処理を組み込んだ温湯消毒の処理条件を確立し、「事前乾燥+65℃・10分」で温湯消毒(新技術)しても慣行法(60℃・10分)と同等の収量が得られること を、生産現場の実地試験で明らかにした。
- 新技術は、ばか苗病をはじめとして、いもち病、苗立枯細菌病、もみ枯細菌病に対して高い防除効果があることを確認した。
- 事前乾燥処理装置を組み込んだ温湯消毒システムを開発し、さらに新技術を普及させるための実践的なマニュアルを完成させた。
4 研究終了後の新たな研究成果
事前乾燥処理の効果は品種により異なることを示し、温湯消毒時の高温耐性が向上する機構は遺伝学的な手法で解明できることを明らかにした。
5 公表した主な特許・品種・論文
- 特願 2019-029086 種子を温湯消毒する前に事前に乾燥する方法およびその装置(中岡清典:株式会社サタケ)
- 柏木めぐみ他.世界のイネコアコレクション」における温湯消毒時の種籾の高温耐性の品種間差の解析.日本作物学会紀事 86(2), 177-185 (2017)
- 伊賀優実他.事前乾燥処理を取り入れた水稲温湯種子消毒のイネ種子伝染性病害に対する効果.日本植物病理学会報 86(1),1-8 (2020)
6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開
(1) 実用化・普及の実績
- 新技術を導入した生産者は確実に増えており、秋田県O村の2020年度の普及例では、栽培面積:166ha、処理種子量:4,666kgで、平均単収662kg/10aとなり作況指数104であった。
- 種籾の事前乾燥処理には、既存の電気乾燥機等の転用が十分に可能であることが示されており、福島県や秋田県では、これらの乾燥機を用いて様々な品種の種籾の消毒に、新技術が導入されている。
(2) 実用化の達成要因
生産現場の多様性を踏まえて、新技術を実用化・普及させるための実践的なマニュアルを完成させたことと、新技術には特殊な技術や装置が不要であることが実用化の達成要因である。
(3) 今後の開発・普及目標
各都道府県の試験場や普及センターの研究者や普及員に、新技術の優れた特徴を理解してもらう活動を積極的に展開し、彼らを通じて安定して普及させることを目標とする。
7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献
農薬の使用を軽減して地球にやさしいクリーンな農業の実施が可能になる。さらに農薬に要するコスト削減につながるので安全・安心で良質なコメを低価格で提供できる。