生物系特定産業技術研究支援センター
(25079C) 西日本のモモ生産安定のための果肉障害対策技術の開発
事業名 | 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ) |
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実施期間 | 平成25年~27年(3年間) |
研究グループ (研究終了当時) |
岡山大学、岡山県農林水産総合センター農業研究所、和歌山県果樹試験場かき・もも研究所、農研機構果樹茶業研究所、テイカ株式会社、西日本果実袋株式会社、岡山県農林水産総合センター普及連携部、和歌山県那賀振興局地域振興部 |
作成者 | 岡山大学 福田 文夫、岡山県農林水産総合センター農業研究所 藤井 雄一郎 |
1 研究の背景
西日本のモモ産地を中心に成熟期の気象変動により、果肉障害の多発や成熟遅延が生じて、商品性の高い果実の安定供給を妨げ始めたことから、容易に栽培に組み込める対策技術の開発が喫緊の課題である。
2 研究の概要
果肉障害の発生や供給を抑制するために、果実温上昇を防ぐ機能性果実袋や障害果技術の開発、成熟時期を前進させるエテホン処理の登録拡大、着果位置の関係の明確化を目指した研究を実施した。
3 研究期間中の主要な成果
- 赤外光反射能の高い酸化チタン(JR-1000,テイカ)を塗布した果実袋の作成方法を検討し、通気性を確保しつつ、果実温度を約2℃下げて、成熟遅延の回避、果肉障害の発生抑制を実現した(図1,2)。
- エテホン散布による成熟促進効果を確認し、農薬登録をモモ全品種に拡大できた。
- 結果枝基部の果実を優先的に残す「基部優先着果法」を開発し、その果実は果肉障害を引き起こしにくいことを示した。
4 研究終了後の新たな研究成果
- 機能性果実袋の作成方法を活かしてナシの果実袋を作成し、晩生ナシの煮え症の発生を抑制できることを明らかにし、本技術が晩生ナシへ利用拡大できることを示した(図3)。
- 果肉障害果の非破壊判別に用いた音響振動法は、個々の果実の熟度の評価にも有効で、生産現場での適期収穫のニーズにも応えることができることを示唆した(図4)。
5 公表した主な特許・品種・論文
- 特開 2016-5877441 果実袋(藤井雄一郎・池田征弥)
- 藤井雄一郎他.モモ'清水白桃'の赤肉果発生に及ぼす気温の影響および障害を抑制する機能性果実袋の開発,園芸学研究 20(2), 印刷中(2021)
- Fukuda,F. et al., Effect of Flowering Time on Occurrence of Reddish Pulp in the Peach, Hort. J. 86,145-150 (2017).
6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開
(1) 実用化・普及の実績
- 機能性果実袋は、岡山県内の産地での試験を経て、市販に至り、2020年度までに183万枚を販売し、その有用性が認知されている。
- 和歌山県内モモ産地では、「基部優先着果法」で高糖度品種の水浸果の発生を抑えられることを産地で実証し、普及を進めて、取り組みを継続している。
(2) 実用化の達成要因
果肉障害抑制における果実袋の遮熱の有効性を把握する一方、通気性を確保する酸化チタンの塗布方法を検討したことや、栽培方法や生産物の外観品質も変化させなかったことが実用化の達成に繋がった。
(3) 今後の開発・普及目標
栽培方法へ開発技術を容易に導入できるように、生産者からのフィードバックを確認しながら、気象変動下でも安定した農業生産に貢献するような遮熱性の高い農業資材を開発していく。
7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献
遮熱資材の活用は、農業だけでなく冷房効率を高め、持続発展に重要な要素であることが示されるとともに、モモ産地のブランド力を高くキープすることで、国民の食生活に安心を与えられている。