生物系特定産業技術研究支援センター
(25052C) 生産現場で活用するための豚受精卵移植技術の確立
事業名 | 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ) |
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実施期間 | 平成25年~27年(3年間) |
研究グループ (研究終了当時) |
農研機構動物衛生研究部門、北海道大学、愛知県農業総合試験場、佐賀県畜産試験場、(株)機能性ペプチド研究所 |
作成者 | 農研機構動物衛生研究部門 吉岡 耕治 |
1 研究の背景
受精卵移植により、産肉能力や繁殖能力に優れた血統の種豚を選択して導入し、なおかつ種豚導入にかかる輸送コストや生体での導入による疾病伝播リスクを低減させることは、生産性向上およびコスト削減につながる。豚の受精卵移植の生産現場での普及のためには、一連の操作・手技の改良や使用培地の製品化などにより、利便性を向上する必要がある。
2 研究の概要
成分既知のガラス化保存液キットおよび胚輸送液を開発した。また、生産現場で胚移植を実施するための手技を改良し、体内発育ガラス化加温・輸送胚を養豚農家で非外科的に移植して受胎させることができることを明らかにした。
3 研究期間中の主要な成果
- 動物生体成分を含まない高品質で安全性の高い成分既知ガラス化保存液キットと胚輸送液を開発・改良
- ガラス化保存液キットで保存した豚胚の融解後の生存率80%以上、孵化率40%以上を達成
- ガラス化保存液キットで保存した体内発育胚・体外生産胚の非外科的移植による子豚生産に成功
4 研究終了後の新たな研究成果
成分既知のガラス化保存液キットおよび胚輸送液を製品化し、販売を開始
5 公表した主な特許・品種・論文
- Mito T et al., Birth of piglets from in vitro-produced porcine blastocysts vitrified and warmed in a chemically defined medium. Theriogenology, 84(8), 1314-1320 (2015).
- 養豚農家で使える受精卵移植技術の実証に成功 -伝染病侵入の危険が少ない、種豚導入に期待!!- . 2016年 農林水産研究成果10大トピックス.
6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開
(1) 実用化・普及の実績
株式会社機能性ペプチド研究所では、本事業において豚胚ガラス化保存液キットおよび胚輸送液を製品化して2016年4月より販売を行っている。また、これら製品の使用マニュアルをホームページ上に掲載している。
(2) 実用化の達成要因
製品化した豚胚ガラス化保存液キット、豚胚輸送液は、血清など動物由来成分を含まない既知成分のみで構成される完全合成製品であることから、ウイルス、細菌等の汚染の心配はない。また、ロットによる生物活性が安定であり、高品質の製品仕様となっている。
(3) 今後の開発・普及目標
豚受精卵移植による子豚の生産は、病気伝播リスクを極力回避して優良種豚等を低コストに生産できる有用な技術との認識が広まりつつある。今後の普及拡大を考えると、尚一層の畜産現場での受精卵移植技術の高度化並びに定着に向けた取り組みが必要である。
7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献
- 豚熱などの伝染病の蔓延を招くことなく優れた血統の種豚を選択して導入することが可能となり、養豚経営の安定化と安心・安全な国内豚肉の生産に貢献する。
- 開発した製品は、既知成分からなる安全で生物活性の安定した仕様となっており、ヒト医学研究のための実験モデル豚の作製などにも利用されるほか、将来的には、ヒト不妊治療で使用される卵子の長期凍結保存等にも利用が期待できる。