生物系特定産業技術研究支援センター

(25084C) 東北地方海岸林再生に向けたマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ種苗生産の飛躍的向上

事業名 農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業(実用技術開発ステージ)
実施期間 平成25~27年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
森林研究・整備機構、青森県産業技術センター林業研究所、宮城県林業技術総合センター、福島県林業研究センター、キリンホールディングス(株)R&D本部キリン中央研究所、宮城県山林種苗農業組合
作成者 森林研究・整備機構 織部 雄一朗

1 研究の背景

マツ材線虫病が拡大している東北では、東日本大震災で壊滅した海岸防災林は、この病気に抵抗性があるクロマツで再生する必要があることから、抵抗性クロマツ種苗の安定供給体制の確立が急務であった。

2 研究の概要

東北産抵抗性クロマツについて、採種園の種子生産性の飛躍的な向上技術、さし木増殖技術、未熟種子由来クローン苗の大量増殖技術を開発し、温暖地産抵抗性クロマツ種苗を東北に導入する指針を示した。

3 研究期間中の主要な成果

  • 6-ベンジルアミノプリン(BAP)を冬芽に投与し、東北産抵抗性クロマツの採種木1本当りの種子増産率を30倍に向上する技術を開発し、実用を想定した採種園の優良種子の増産率は3倍に達すると試算できた。
  • 簡易人工交配により極めて高い交配成功率(94%)を実現し、種子の充実率を大幅に向上し、園外花粉による花粉汚染を大幅に低下させ、遺伝形質である抵抗性レベルを保持する採種園管理技術を開発した。

4 研究終了後の新たな研究成果

  • 市販のBAPを含有する農薬を塗布した冬芽から伸長したシュートにおいて、雄花の着生部位に雌花が誘導されることを確認した。
  • 農薬の種類によっては芽の枯死、葉の形態異常等の薬害が時々生じることを見出した。
  • BAP農薬の効果には、投与する方法、時期、抵抗性クロマツ系統によって差があった。

5 公表した主な特許・品種・論文

織部雄一朗.東日本大震災で壊滅した東北地方の海岸防災林の再生現場への抵抗性クロマツ苗木の安定供給.森林防疫 69(4), 69-78 (2020).

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

東日本大震災の復興事業として、宮城県林業技術総合センターの抵抗性クロマツ採種園(0.39ha)において、宮城県内の海岸防災林を再生するための苗木の生産現場へ供給する種子の生産性を向上させ、平成28年度には最大で苗木140万本に相当する44kgの種子を生産し、再生計画での供給目標を期限内(平成31年度)に達成した。

(2) 実用化の達成要因

海岸防災林再生事業における抵抗性クロマツ苗木のニーズを把握し、東日本大震災の被災県の試験研究機関を中心にコンソーシアムを構成して技術の実用化に取り組んだことが適切であったと思われる。

(3) 今後の開発・普及目標

抵抗性クロマツ採種園の種子生産性を飛躍的に向上する技術を社会実装することを目的とし、BAP農薬をクロマツに適用するために必要な基礎的な情報を収集する。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

この技術で海岸防災林が再生されることにより東日本大震災で壊滅した沿岸部での生活と営農の復興が見込まれる。BAPによる採種園の生産性向上技術は、我が国の主要造林樹種への応用が期待される。

(25084C) 東北地方海岸林再生に向けたマツノザイセンチュウ抵抗性クロマツ種苗生産の飛躍的向上